料理と向き合う為に、何かいい食材はないかと、
愛知県名古屋市にある柳橋市場に行ってきました。
http://www.marunaka-center.co.jp/
見て回っていましたら、
愛知県の三河湾で揚がった、2㎏upの大きな鱧が生簀にありましたので、〆て頂きました。
今回はこの鱧と向き合いたいと思います。
顔めちゃこわっ!
鱧と向き合うにあたり、やってみたい事がありました。
鱧は骨が多く、通常は骨切りをするのですが、骨を切るのではなく、骨を抜く事はできないのかという事で、
今回は「鱧の骨抜き」をやってみようと思います。
通常の「鱧の骨切り」は、身に細かく切り込みを入れていくわけですが、その為どうしても食感や旨味を逃がしているのではないかという、私個人の懸念が前々からありました。
そこで「鱧の骨抜き」をする事によって、その懸念を最小限に抑えられるのではないかという思惑があります。
そして、調理法はどうしようかと考え、
これだけ立派な大きさの鱧なので、この鱧のどっしりとした重厚感のある旨味を存分に味わえる調理法をという事で、
さっぱりと食べられる鱧料理の代表的な「鱧の落とし」ではなく、
鱧の旨味を活かした「鱧の付け焼き」、「鱧の蒲焼き」を、
さらに、蒲焼きの調味料として、なるべく鱧の旨味を活かしたいので、
素材の旨味を活かすのに最適な醤油、「白醤油」を使っていこうと思います
「白醤油」とは、主に愛知県で作られる、小麦を原料とする琥珀色の醤油です。
一般的に濃口醤油や薄口醤油は大豆50%小麦50%で作りますが、白醤油は小麦90%大豆10%で作ります。
白醤油はとにかく色を付けないように作られた醤油で、大豆を増やすと色が濃くなる事、発酵時間も濃口醤油は一年、薄口は半年くらいですが、白醤油は三ヶ月くらいと短い事、これらは色を付けない為の事です。
味としては旨味よりも甘味を感じます。
旨味成分を示す窒素濃度が極端に低いのも特徴で、旨味のもとになる大豆が少ない為、白醤油の窒素濃度は一般的に0.4%〜0.6%と低く、濃口醤油の3分の1ほどです。
大豆のたんぱく質を発酵させると旨味が増えますが、小麦のデンプンが糖化すると糖ができる事からでしょう。
旨味が少ない事をデメリットではなく、メリットして活かし、醤油味がゴンとこないほうがいいという使い方、
素材の旨味を活かす使い方をします。
今回の鱧は三河湾産ですので、調味料も愛知県産で、白醤油の他に、味醂、日本酒も愛知県産にこだわって、
オール愛知県産の「鱧の白蒲焼き」を作っていこうと思います。
やってみりん!
鱧の白蒲焼の作り方
鱧を捌く
鱧を捌いていきます。
まずは、殺菌とぬめりを取る為に、沸騰したお湯をサッとかけて、氷水に落とします。
殺菌の効果を最大限にする為に、100℃の沸騰したお湯で、
しかし、なるべく魚に火が通らないように、魚のタンパク質が変性しないように、サッとお湯をかけて、すぐに氷水に落とします。
さらにこの際に使う水として、高硬水(硬度1468mg/L)のコントレックスを使います。
鱧のぬめりを取る、すなわち食材のアクを取るのに最適な水は高硬度の水です。
なぜコントレックスを使うのかというと、
過去の記事水と向き合う!料理に最適な水とは?ミネラルウォーターを飲み比べてみた!で学んだ事を活かします。
この記事で、料理に最適な水とは、その料理、その調理工程別に、様々な水の特性を考慮して選ばなければならないという事を書きました。
ではなぜ、鱧のぬめりを取るのに最適な水は高硬度の水なのかというと、
この記事で、高硬度の水で取っただしやスープは、高硬度の水に多く含まれるカルシウムが、昆布から溶出するアルギン酸等の多糖類、牛肉や鶏肉から溶出するタンパク質、野菜から溶出するペクチン等と結合し、アクとなる事により、透明度の高いだしやスープが取れる事を論文から学びました。
鱧のぬめりとは「ムチン」と呼ばれるタンパク質の一種です。
ですので高硬度の水を使えばより多くのぬめりが取れるのではないかというわけです。
という事で、鱧に沸騰したコントレックスをサッとかけて、氷水に落とし、殺菌とぬめり取りをします。
ぬめりはお湯をかけて白くなるので、これを包丁でこそぎ落とします。
そして、お腹を裂いて内臓を出し、水洗いし、水気を拭き取り、鱧を捌きます。
こうして捌いた鱧を、通常は「骨切り」していくわけですが、今回は「骨抜き」していきます。
骨抜きにしてやんよ!
鱧を骨抜きする
鱧を骨抜きしていきます。
といっても、簡単ではなく、正直「骨切り」よりも時間がかかります。
実際のやり方として動画の方が分かりやすいので、私も参考にさせて頂きました動画を貼らせて頂きます。
なかなか苦戦します。
今回使いました道具としての骨抜きは、通常のものより抜きやすいものはないのかとAmazonで探したものですが、なかなか使い勝手が良く、抜きやすかったです。
こうして骨抜きした鱧に、塩を浸透させていきます。
鱧の重量の0.8%の塩をまぶして、フィルム袋に入れ、
鱧の重量の10%の太白胡麻油を入れ、真空密封し、冷蔵庫に1日置きます。
冷蔵庫には水を張った容器の中に浮かべて寝かせます。
ウォーターベットに寝かせる事で、鱧の自重による変形や腐敗を防ぎます。
次に、鱧の白蒲焼きのたれを作っていきます。
秘伝のたれっ!
鱧の白蒲焼きのたれを作る
蒲焼きのたれの材料は、醤油と味醂と日本酒です。
今回は醤油で白醤油を使うので、白蒲焼きといっています。
あとは、通常ここに砂糖も加えますが、今回はコース料理のなかの一品という事で、砂糖は入れずに作ってみました。
砂糖を使うと、ご飯が欲しくなってしまうので、コース料理の中の一品としては、不釣り合いかなという思いがあります。
さらに、今回使う醤油と味醂と日本酒、全て甘味に特徴のあるものを選んでいますので、この事からもあえて砂糖を使わずにやってみました。
そして、今回の鱧が愛知県三河湾産という事で、調味料も愛知県産にこだわってみようと思い揃えた醤油と味醂と日本酒がこちらです。
醤油は、日東醸造「足助仕込三河しろたまり」
一般的に白醤油は小麦90%大豆10%で作りますが、このしろたまりは小麦100%で作ります。
醤油の定義は大豆を使っている事ですので、実はこちらは醤油と呼ぶ事は出来ません。
醤油と呼べない事よりもこだわりを貫き、さらに通常の白醤油の2倍の小麦を使っており、日東醸造特有の白醤油といえます。
味醂は、角谷文治郎商店「三州三河みりん」
日本酒は、丸石醸造「三河武士 純米酒」
これらを、1:1:1の割合で合わせます。
合わせたら、火にかけ、沸いたら鍋に火を付け、アルコールを飛ばします。
火が止まったら、アルコールが飛んでいます。
このままたれとして使ってもいいですが、今回はここに鱧のだしを加えたいと思います。
鰻のたれや、焼鳥のたれ等、何度も何度も素材にたれを付けていく度に、その素材の旨味がたれに馴染み、奥深い味を生み出している部分があるでしょう。
そういった、味の奥深さを生み出している事を、素材のだしをたれに加える事によって、生み出そうという思惑です。
という事で、鱧のだしを取っていきます。
先程捌いた鱧のあら、頭、骨、かま等を、まず沸騰したコントレックスで数秒湯がき、氷水に落とし、綺麗に水洗いします。
それを焼き台で焼き、水分を取り除きます。
そして、こんがりと焼き上がった鱧のあらと水を鍋に入れ、火にかけ、だしを取っていきます。
この際の水は、中硬水(硬度304mg/L)のエビアンを使います。
鱧のあらでだしを取る、すなわち肉や魚のだしを取るのに最適な水は中硬度の水です。
なぜエビアンを使うのかというと、
過去の記事水と向き合う!料理に最適な水とは?ミネラルウォーターを飲み比べてみた!で学んだ事を活かします。
この記事で、高硬度の水で取っただしやスープは、高硬度の水に多く含まれるカルシウムが、昆布から溶出するアルギン酸等の多糖類、牛肉や鶏肉から溶出するタンパク質、野菜から溶出するペクチン等と結合し、アクとなる事により、透明度の高いだしやスープが取れる事を論文から学びました。
しかし、カルシウムとタンパク質やペクチンの結合の具合により、牛肉のスープや野菜のスープ等の遊離アミノ酸合計量は、高硬度の水よりも中硬度の水の方が多い事も論文から学びました。
これらの事から、肉や魚のだしを取るのに最適な水は中硬度の水といえるわけです。
という事で、鱧のあらとエビアンを鍋に入れ、火にかけ、アクを取りながら、1時間程煮出します。
煮出したら、漉して鱧のだしの完成です。
この鱧のだしと、先程合わせたたれを、合わせます。
分量は先程合わせたたれの、白醤油、味醂、日本酒の1:1:1の1の分量と同じ分量を合わせます。
あわせたら、もう一度火にかけ、1割程煮詰めます。
煮詰めたら、白蒲焼のたれの完成です。
次に鱧に火を入れていきます。
まずは蒸して、それから炭火で焼き、さらにたれを掛けて焼いていきます。
ファイヤーッ!
鱧を蒸す
1日寝かして、塩を浸透させた鱧を、フィルム袋から取り出し、串を刺していきます。
串を刺すときに、鱧の皮に串である程度プスプスと刺していきます。
これは焼いた時に気泡のように皮が膨らむのを防ぐ為です。
串が刺せたら火を入れていくわけですが、まず蒸していきます。
皮を蒸し器の下側にし、皮にある程度の火を通しゼラチン化にさせる事と、身に水分を含ませる事が目的です。
蒸気の上がった蒸し器にいれ、そのまま強火で5分蒸していきます。
鱧を炭火で焼きたれを掛けて焼く
蒸した鱧を炭火で焼いていきます。
ここでは、皮側だけ火を当てていきます。
皮をパリパリになるまで焼いていきますが、その間に身まで十分火が通っています。
ここからさらにたれを掛けて焼く事も考えると、火の当て過ぎで、鱧の水分と脂分が抜けてしまいますので、その事も留意しながら、火を入れていきます。
皮がパリパリに焼けたら、たれを掛けて焼いていきます。
たれは身側にだけ掛けて焼いていきます。
皮にたれを掛けると、せっかくパリパリに焼いた食感が損なわれてしまう為です。
3、4回たれを掛けては焼き、掛けては焼きを繰り返します。
焼き過ぎによる、鱧の脱水、脱脂に留意しながら、かつしっかりたれをのせる事を考えながら焼いて、完成にもっていきます。
よ~く考えよ~!
盛り付け
焼き上がった鱧の串を抜き、器に盛り付けて完成です。
実食
いただきます!
まずは、メイラード反応による香ばしい香り、醤油の焦げた香ばしい香りに食欲をかきたてられます。
こんがりと、そして艶のある美しい焼き色は、味醂によるものでしょう。
この焼き色にも食欲をかきたてるものがあります。
一口、口に入れ、歯で噛みしめますと、まずは何より、皮のクリスピーなパリパリ感を存分に味わえる事ができ、さらにそこから噛み進めると、身のふわふわ感にに見舞われ、何とも言えないアンバランスに思えるような、しかし絶妙なバランスの食感に楽しくなります。
味はというと、たれの旨味、甘味を感じつつ、鱧の旨味もしっかり味わう事ができ、たれの味だけしかしないという事もなく、たれと鱧、両方の旨味を感じる事ができます。
たれは砂糖を入れていないのですが、白醤油と味醂と日本酒、全て甘味に特徴のある調味料を揃えた事により、程良い甘味を感じる事ができます。
ご飯が欲しくなるような蒲焼きの焼き方はもちろんそれはとても美味しいものですが、コースの中の焼物としての一品として考えた時に、今回のような蒲焼きも一考にあるなと考えさせられました。
ごちそうさまでした!
まとめ
今回、愛知県名古屋市にある柳橋市場で食材を探し、愛知県三河湾産の鱧と出会い、調味料も愛知県産で揃え、鱧の白蒲焼を作ってみました。
愛知県の調味料を探してみると、本当に様々な調味料があり、そしてそれぞれの生産者の方々の想いが詰まったものであり、使う側として、この調味料の個性をどう活かせばその調味料の良さが伝わるのか、加えてその個性を損なわないのかという事を念頭に置いて使わなければ、生産者の方々に失礼に当たるなと、プレッシャーをも感じてしまいました。
ただ、それだけ想いを込めて作っているものはやはり美味しいです。
そして、その生産者の方々の想いを酌んで考えた料理も美味しくなると思います。
鱧と出会った時に、どんな料理にしようかなと考える時に、今回のように調味料も愛知県産で揃え、オール愛知県産の料理にする等、ストーリーを料理に付け加えるという事は、料理を考える側にとっても、おもしろい事だなと思いました。
しかし、今回はただ愛知県産で揃えただけというストーリーしかないので、薄っぺらい事は確かです。
ここに何かもっと、深いストーリー性を、自分にしか現わせられないストーリー性を料理に付け加える事ができたのならば、その料理が、自分の個性を存分に発揮させた料理になり得るのではないかと思いました。
今後、料理を考える時に、このストーリー性というものもしっかり向き合って考えていきたいと思います。
こうして、いずれ開く店への道のりが、また一歩踏み出されたのです。
12歩目
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