前回の記事で、だしと向き合い、だしに最適な水を選び、だしを引くのに最適な温度を学びました。
今回は、前回引いた鰹節と昆布のだしを使って、
だしを存分に味わえる料理、
日本料理の花形とも呼ばれる椀物、
その椀物の中でも王道であろう、海老真薯の椀物を作っていきます。
いっちょやってみっか!
海老真薯の椀物の作り方
海老真薯を作っていくにあたり、今一度作り方を見直そうと思いました。
基本的な海老真薯の作り方というと、
私の日本料理の教科書「プロのためのわかりやすい日本料理」をみてみると、
海老真薯の作り方
①車海老の頭を背わたとともに取り、殻と尾を除く。2/3はフードプロセッサーですりつぶす。1/3は刻む。
②すり鉢に、すりつぶした車海老と白身魚のすり身を入れ、なめらかになるまですり混ぜる。
③すり鉢に、卵の素(卵黄にサラダ油を加えながらとろっとなるまでかき混ぜたもの。主に真薯生地に加えて、なめらかさをだすために用いる。)、塩、煮切り酒、浮き粉、昆布だしを順に加えてよく混ぜて味と柔らかさを調える。刻んだ車海老を加えて混ぜる。
④鍋に昆布だしを沸かし、塩少量を加えて、沸騰直前の細かい泡が立つくらいの火加減にする。真薯生地を玉杓子に半分ほどすくって入れる。真薯が浮き上がったら、一度裏返して、5分ゆでる。
⑤火が通ったら、布巾を敷いたざるに上げ、水気をきる。
とあります。
この作り方で、とても美味しい海老真薯を作る事ができます。
しかし、私はこの作り方で気がかりな事がありました。
それは、海老の頭や殻を使わないところです。
海老の頭には濃厚な味噌(正確には海老の内臓。中腸腺(ちゅうちょうせん)、肝膵臓(かんすいぞう)と呼ばれる部位。)がありますし、
海老の殻には、あの海老等の甲殻類独特の香りをもっています。
これらを使って、海老そのもののもつ旨味、香りを存分に余すことなく味わいたい。
それを海老真薯という料理に用いる事はできないものなのかと考えました。
そんな想いをひとつ形としてみましたので、ここに作り方を述べていきます。
揺れ~る♪想~い♪
車海老の下準備をする
海老真薯の材料は、車海老、卵、大和芋、塩、太白胡麻油です。
今回使用したのは、沖縄県宜野座産の車海老です。
まず、車海老を殺菌します。
沸騰したお湯にサッとくぐらせます。
湯通した車海老は、頭、味噌、殻、身にわけます。
身の2/3はフードプロセッサーですりつぶし、1/3は包丁で刻み、プリプリした食感を残すようにします。
海老の味噌は、蒸し器で強火で10分程、火を入れておきます。
卵の素を作る
卵の素とは、卵黄にサラダ油を加えながらとろっとなるまでかき混ぜたもので、主に真薯生地に加えて、なめらかさをだす為に用いります。
今回はこの卵の素を作るのに、サラダ油でなく、海老の殻を使って海老の香りを油に移した、海老油を使っていきます。
海老の殻は目玉を取り、1日干して水分を飛ばします。
鍋に太白胡麻油と干した海老の殻を入れ火にかけ、油に海老の殻の香りを移していきます。
油跳ねに十分に気を付け、焦がさないよう、焦げる前に、香りが十分に油に移ったら、
漉し器で漉して海老油の完成です。
卵の素を作っていきます。
ボウルに卵黄を用意し、卵黄の倍量の海老油を用意します。
卵黄の入ったボウルに、海老油を少しづつ加えながらかき混ぜます。
分離せず、なめらかに混ざれば完成です。
真薯生地の材料を準備し、すり鉢ですり混ぜる
下準備した車海老、卵の素と、
卵の素を作った時にでた、卵白はメレンゲにし、
大和芋はすりおろし、
真薯生地の材料を準備します。
分量は、下準備した車海老の量を1として、卵の素0.2、大和芋0.1、卵白0.05です。
すり鉢に、フードプロセッサーですりつぶした車海老と塩を少量入れ、すり混ぜ、弾力を生み出すようにします。
弾力を生み出すには、塩と加熱が不可欠です。
練りものの弾力を生み出す仕組みは下記のサイトをご覧下さい。
十分にすり混ぜたところに、海老の味噌、卵の素、大和芋を順に加えて混ぜ合わせます。
十分に混ぜ合わせたところに、包丁で刻んだ車海老、卵白のメレンゲを加えて混ぜ合わせます。
海老真薯を蒸す
真薯生地は1人前40gをラップフィルム等に取り丸めます。
十分に蒸気が上がった蒸し器に、強火で10分程蒸します。
盛り付け
温めたお椀に、海老真薯、具材を盛り付け、
鰹節と昆布のだしを温め、塩、日本酒で味を調え、お椀にはり完成です。
鰹節と昆布のだしに加える塩と日本酒は、極僅かで十分です。
十分に旨味が引き出されただしは、何もしなくてもそれだけで美味しいです。
塩や日本酒は、あくまで味を下支えするものというイメージです。
時に、全く何も手を加えず、そのままお椀にはる場合もあります。
実食
いただきます!
椀物の楽しみといえば、なんといっても香りです。
蓋がある事により、湯気がこもり、蓋を開けた瞬間、
一気に揮発された香気成分が嗅覚を刺激し、まずその香りに誰もが心を奪われるでしょう。
この海老真薯の椀物でいうと、何とも言えない食欲をそそる海老の香り、それも濃厚な海老の香りが、嗅覚を刺激します。
海老の殻を使った海老油を使ったおかげでしょうか。
さらに鰹と昆布のだしの香りがその海老の香りにまとわりつきながら、さりげなく香りを漂わせます。
鰹節と昆布のだしの香りは、何とも気持ちを落ち着かせる香りです。
日本人のDNAに刻まれているのでしょうか。そんな事を思わせる有無を言わせない、気を安らげる効力が、このだしの香りにはあります。
まずは、だしを一口味わいます。
旨味を感じます。甘味も感じます。旨味からくる甘味でしょう。それでいてきつくなく、体に染み渡る、そんな感じ方です。
そして、海老真薯を頂きます。
箸を入れると、箸の抵抗から弾力を感じつつ、なめらかさというかやわらかさも感じます。
それを口に入れると、海老そのものの味、濃厚さをガツンと味わう事ができます。
海老の味噌のおかげでしょうか。まさに、海老の塩焼きを一気に味わっているかのような、そんな海老のダイレクトな味わいを、この真薯という料理で味わう事ができました。
最後まで食べ続けます。一滴も残さず飲み干します。
そして、お椀を机に置いた時、「ほっ」と、何とも言えない安堵感を味わいました。
この落ち着きを与えてくれる料理というのは、なかなか他にはないのではないでしょうか。
椀物という料理は、鰹節と昆布のだしを味わうのに最適な料理なのだと思い知らされました。
ごちそうさまでした!
まとめ
今回、だしと向き合い、最適な鰹節と昆布のだしの引き方を学んだ結果得ただしを使って、
海老真薯の椀物を作ってみました。
海老真薯は今までの作り方を見直し、
海老そのもののもつ旨味、香りを存分に余すことなく味わいたい。
そんな想いを形にして作ったところ、なかなか想うようなものができたのではないかと思いました。
ひとつ挑戦というのであれば、
鰹節と昆布のだしを味わうのに最適な料理である椀物の他に、
鰹節と昆布のだしを味わうのに最適な料理を見つける事でしょうか。
椀物という料理は、完成されています。
日本料理の花形です。
変に手を加えれば、伝統を重んじる方々から非難を受け、そんな料理が受け入れられるのは難しいでしょう。
それ以前に、手を加える必要性がありません。
手を加えようとするならば、その椀物という料理の完成度故に、奇抜さに走らなければならなくなるでしょう。
では、鰹節と昆布のだしを味わうのに最適な料理は他にないのでしょうか。
ここに、何か、自分の料理、個性を感じる料理、他では味わえない料理というもののヒントが隠されているように思います。
ただとてつもなく難しいようにも感じさせます。
いまこの文章を書いている時には、なかなか具体像は思い浮かびません。
それが思い浮かぶようになるには、様々な経験が必要になってくるのではないか思います。
まだまだこれから、焦らずじっくり料理と向き合っていきたいと思います。
こうして、いずれ開く店への道のりが、また一歩踏み出されたのです。
9歩目
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