日本人の主食である、米。ご飯。白米。銀シャリ。
日本人として最も身近な食材である米、美味しいご飯を炊くにはどうしたらよいのか。
ご飯の炊き方、炊飯というものに今一度向き合っていこうと思います。
お米大好きっ!
ご飯の炊き方(実践と理論)
美味しいご飯の炊き方のせまり方として、
実践し、その工程ごとにその最適法とその根拠となる理論を添えて述べていこうと思います。
美味しいご飯が食べたいっ!
まずは、ご飯を炊くのに最適な水からせまります。
ご飯を炊くのに最適な水とは?
過去の記事で、水と向き合い、料理に最適な水とは?という疑問に結びつく理論を学びました。
この記事で、料理に最適な水とは、その料理、その調理工程別に選ばなければならない事を書きました。
この記事では、料理に最適な水を選ぶのに根拠となる論文を色々探し出し載せましたが、
ご飯を炊くのに最適な水を選ぶのに根拠となる論文も載せていましたので、
今一度、ここで見ていきたいと思います。
水の硬度の違いによるご飯への影響を述べている論文
簡単にまとめると、
水道水と軟水と硬水でご飯を炊いたら、軟水で炊いたご飯が最も、吸水が促進され、堆積増加率が高くなり、ふっくらと柔らかいご飯になった。
その原因として、カルシウム濃度が低い事が考えられ、
カルシウムがご飯に及ぼす影響として、吸水や膨潤を抑制し、ご飯を硬くする事は、他の論文において明らかにされている。
さらに、カルシウムは、大根のペクチンと結合し軟化を抑制する事が、他の論文において明らかにされている。
ご飯においても、カルシウムによってペクチンが不溶化し、ご飯を硬くする可能性を考え、
ご飯に含まれる水溶性ペクチンと不溶性ペクチンの割合を比較すると、軟水で炊いたご飯が最も、不溶性ペクチンの割合が低かった。
といっています。
この論文から、ご飯を炊くのに最適な水は軟水といえます。
さらに、ご飯を炊くのに最適な水を選ぶのに根拠となる論文はないかと、お馴染みの「J–STAGE」を使い探しました。
すると、炊飯と水のpHの違いについて述べている論文を見つけました。
簡単にまとめると、
アルカリ性の竹炭や酢酸添加炊飯によりご飯の粘りが増加する事が、他の論文で報告されており、
炊飯液のpHはご飯に影響を及ぼす事と考えられる。
そこで、pH3、5、7、9に対応する緩衝液で炊飯し比較したところ、
還元糖量は、pH5が最も増加。
炊飯直後の粘り、付着性は、pH3、9で増大。
冷蔵保存後の粘り、付着性も、pH3、9で増大したが、pH5では減少。
生米を50℃で1時間浸漬した液中のタンパク質量は、pH7に比べ、pH3、9は増加、pH5は減少した。
この事からpH5ではタンパク質の溶出が抑制され、ご飯の付着性の低下に寄与する事が示唆された。
といっています。
この論文から、ご飯を炊くのに最適な水のpHは3か9といえますが、pH3の水というと、市販のミネラルウォーターでは見当たらず、酢やレモン果汁を加えて調整しなければならない事になり、現実的ではありません。
よって、ご飯を炊くのに最適な水のpHは9程度のアルカリ性といえます。
pH9程度の水というと、過去の記事「水と向き合う!料理に最適な水とは?ミネラルウォーターを飲み比べてみた!」で飲み比べたミネラルウォーターのひとつに「温泉水99」というミネラルウォーターがpH9.9と高アルカリ性ですが、
他の水についても、備長炭を入れる事によってアルカリ性にシフトする事ができます。
この事について述べている論文もありました。
簡単にまとめると、
備長炭を浸漬した水のpHは、浸漬1時間後のpH9強を最大に変動する。
普通炊飯と備長炭添加炊飯のご飯を比べると、
備長炭炊飯のご飯の方が、瞬間弾性率が高く、弾力に富んだご飯である事が示唆された。
といっています。
以上の事をまとめると、
ご飯を炊くのに最適な水は軟水でpH9程度のアルカリ性の水
という事が分かりました。
分かりましたっ!
しかし、ひとつ気掛かりな事があります。
どうも引っ掛かるなぁ!
軟水といえど、日本でよくみられる硬度30mg/L程度の軟水から、硬度0.2mg/Lという超軟水のものも見受けられます。
以前の記事「だしと向き合う!だしに最適な水?最適な温度とは?かつお節と昆布のだしを作ってみた!」で、
硬度30mg/Lの南アルプスの天然水と、硬度0.2mg/Lの白神山地の水でだしを引き、比べたところ、
白神山地の水で引いただしは、旨味からくる甘味を強く感じ、良い方の表現はなく、甘味を強く感じすぎてしまいました。
南アルプスの天然水で引いただしは、旨味、甘味を十分感じるのですが、それが強すぎるという感じではなく、加えて味に深みを感じました。
その原因として、多少のカルシウムとマグネシウムを含んだ水で引いただしの方が、味に深みを与えるのではないかという結論にいたりました。
この結果が、ご飯にも当てはまるのかという事が気掛かりなのです。
ですので、実際に、硬度30mg/L程度の軟水と、硬度0.2mg/Lの超軟水で、ご飯を炊いて食べ比べてみたいと思います。
やってみよう!
硬度30mg/L程度の軟水というのは、日本の平均的なミネラルウォーターです。
硬度30mg/L程度の軟水を色々飲み比べてみたところ、私的に気に入りましたのは、「富士ミネラルウォーター」でした。
富士ミネラルウォーター
ナチュラルミネラルウォーター
鉱水
硬度38mg/L
pH8.0
もうひとつは、ミネラルウォーターの中でも特に硬度の低い、硬度0.2mg/Lの「白神山地の水」です。
白神山地の水
ナチュラルミネラルウォーター
鉱泉水
硬度0.2mg/L
pH6.6
食べ比べてみた感想はというと、
白神山地の水で炊いたご飯の方が
「甘い」
という感想です。
これは、以前のだしの時と同じです。やはり、硬度がより低い方が甘味を強く感じます。
ただ、だしの時の感想とは違いました。
それは、悪い意味での「甘い」ではなく、良い意味での「甘い」なのです。
富士ミネラルウォーターで炊いたご飯も、もちろん美味しいです。
ただ、白神山地の水で炊いたご飯の方がより甘く美味しく感じました。
食べ比べた微妙な評価として、富士ミネラルウォーターに含まれる多少のカルシウムとマグネシウムも、白ご飯という料理にはいらないかなと感じました。
この「だし」と「ご飯」とでは水の違いによる味の評価が異なる要因は何なのでしょうか。
ここで、私の考察を述べます。
「だし」と「ご飯」とでは、味のバランス、旨味、甘味、塩味、酸味、苦味といったそれぞれの味のバランスが違うように思います。
「だし」の方が味のバランスが複雑で、
「ご飯」の方が味のバランスが単純でしょう。
「だし」のその味のバランスの複雑さ故に、そのどれかが飛びぬけてしまうと違和感を感じ、
「ご飯」のその味のバランスの単純さは、ひとつが飛びぬけても許容されるのではないでしょうか。
バランスが大事!
以上の事を全てまとめますと、
ご飯を炊くのに最適な水は、硬度0.2mg/Lの白神山地の水に備長炭を1時間浸漬しpH9程度のアルカリ性にした水
という事が分かりました。
では、水が決まりましたので、次に米を用意し洗米していきます。
キレイ!キレイッ!
米の最適な研ぎ方とは?
今回使用したのは、私の地元、愛知県岡崎市にある「小久井農場」さんのコシヒカリです。
今回は3合炊きたいと思います。
ここで大事なのは正確に量る事です。
よくあるカップ1杯で1合を量るという事は、とても不正確です。
すりきり1杯のすりきりは、所詮その人次第でその都度に変わります。
ですので、はかり、デジタルスケールを使います。
デジタルに頼ります。
1合は150gです。3合で450gです。
米を研ぐ時にも白神山地の水を使います。
米は乾燥しています。研いでいる間にもグングン水を吸い込みますので、せっかく炊く時の水をこだわっても、研いでいる時に水道水を使ってしまっては、こだわりに対するわきが甘いという事になってしまいます。
ここで、米の最適な研ぎ方にせまります。
下の論文は、この論文の著者が30数年にわたって行ってきた炊飯に関する研究をまとめた論文です。
ここには、洗米から、加水量、浸漬、加熱、蒸らしに至るまで炊飯の全工程について述べられています。
この中から洗米について述べている部分をみてみます。
簡単にまとめると、
従来米は「研ぐ」方法で洗米されてきたが、最近は揚精の技術も向上し米は「洗う」でよいといわれる。
「洗う」方法と「研ぐ」方法で洗米した米の性状を比べると、
「研ぐ」方法は、分離固形物、砕け米の数が多い。
「研ぐ」方法では、表層部の組織が軟弱化する事、砕け米が混入したまま炊飯される事が原因となったためか、テクスチャー測定によるかたさの値が低くなった。
しかし、官能的には「洗う」「研ぐ」の違いが明確に食味には反映されなかった。
だが、低食味米では、外観やテクスチャー、味等の違いは顕著にあらわれた。
古米等も含めて低品質の米の場合には、「研ぐ」方法によって食味改善が期待できるのではないかと考えられた。
といっています。
「研ぐ」という事は、米を掌でゴシゴシしたり、ボウルの中でジャッジャッと音を立てて揉み洗いする事です。
「洗う」という事は、水の中の米を指先で混ぜるように洗う事です。
精米技術の向上により、しっかり精米された白米では、糠くさいという事や、大きなゴミが混ざっているという事はありません。
ですので、米の表面のよごれや、混ざっているかもしれない小さなゴミを洗い流すという感覚で洗米を行います。
古米等は、劣化の著しい米の表面を洗い落とすという事はあろうかと思いますが、
しっかり精米された白米は、逆に米の栄養成分、旨味の洗米による流出をなるべく少ないようにとの考えでやさしく手早く洗います。
はかりで量った米をボウルに入れて、たっぷりの水を注ぎ、指先で数回グルグル回したら、ザルに受けて水を流します。
これを2、3回繰り返して完了です。
水の白濁具合は下の写真程度になります。
洗い終わった米は、次に米に水分を含ませる作業を行います。
米に水を浸漬、浸水させていきます。
じわじわぁ~!
米の最適な浸水とは?
米は収穫したものを保存がきくように乾燥させた、乾燥食品です。
ですので、本来は米に水分を含ませる必要があります。
米の浸水が十分でないと、水を吸いこんでいない内側の部分には火が通らず芯ができてしまいます。
狙って芯を残す場合もあるでしょう。
リゾット等、米とソースやスープと一緒に食べる料理の場合は、米をアルデンテというか、少し芯を残した状態も良いと思いますし、
白ご飯でも、「ちょっと芯が残った硬いくらいが「米食ってる」って感じがしていいんだ。」と言う人もいるでしょう。
硬いのが好き、柔らかいのが好き、さらっとしたのが好き、ねばっとしたのが好き、白ご飯の好みは本当に人それぞれです。
日本人の主食です。日本人としての誇りから、白ご飯の好みは譲れないでしょう。
ただ、この好みはコントロールできます。
好みの米の品種を手に入れるという事はもちろんですが、
この米の浸水からの工程が、出来上がりのご飯の状態を大きく左右させます。
ひとつ自分好みの状態に持っていける炊き方を、理論を含めて覚えておけば、そこからどう炊き方を調整すれば、もう少し柔らかく、硬くというのはコントロールできます。
ここで私の白ご飯の好みを言います。
「芯は残っていなく、さらっとしすぎず、ねばっとしすぎず、最低限米一粒一粒が分かる程度の柔らかさ」
です。
すごい抽象的ですが、目指しているイメージはこんな感じです。
今まで美味しいご飯の炊き方、最適なご飯の炊き方にせまっているわけですが、ここを目指した方法を述べていっています。
では、そこを目指す為の米の浸水にせまっていきます。
芯は残さないので、しっかりと浸水させる必要があります。
この米の浸水についても研究はされていて、論文が残されています。
その論文をみていきます。
簡単にまとめると、
5~50℃の温度で、5~240分間米を浸漬し、米の吸水率を測定したところ、
吸水曲線が交差する現象が観察され、温水浸漬よりも低温浸漬の米の吸水率が高かった。
30分までは温水浸漬において吸水率が高く、30分以上では温度依存的に増加しなくなる。
120分では5℃、10℃、20℃の順に吸水率が高くなる。240分ではさらに顕著になるが、吸水曲線は微増になる。
この原因として、水の粘度は温度に影響を受け、例えば5℃と50℃では、50℃の方が水そのものの粘度は小さくなる。この事が米への水の浸透速度へ与える影響もあると考えられる。温度が高いと米粒表面のデンプンの膨潤が速く進む為に水が中心部まで浸透しにくくなる可能性も考えられる。
といっています。
この論文から米に最適な浸水は5℃の水に120分漬けるという事が分かりました。
では実際に米を水に浸漬させていきます。
この米を浸漬させる水というのは、そのままこの水を使って炊飯していきます。
この浸漬させた水にはタンパク質が溶けだしています。という事は栄養成分や旨味も溶けだしているという事です。
ですのでその水でそのまま炊飯していきたい訳です。
ですのでしかっり計量した水に米を浸漬させていきます。
基本の分量は米1合(150g)につき水200gです。
水は㏄じゃないのか。
㏄は容量の単位ですので、量る為には計量カップを使わなければなりません。
計量カップを使うという事は、どうしても正確性に欠けてしまいます。
ですので私は水もデジタルスケールで量ります。
ちなみに私は醤油や砂糖もデジタルスケールで量ります。
実際に醤油1㏄は1gではありません。
大事なのはそこではなく、再現性です。
大匙1杯(15㏄)を10回量ったら、0.いくつかの誤差は必ずでてきてしまうでしょう。
その誤差は、料理の再現性という点でとても見過ごせない誤差になります。
ですので全てをデジタルスケールで量り、再現性を確実なものにするわけです。
基本の分量は米1合(150g)につき水200gですが、
その米自体の含水量というものは品種やその生産者によっても変わってきます。
ですので、最初はこの基本の分量で炊いてみて、あとは好みで増減させていきます。
増減させる分量は米1合につき水10g変えても、けっこう炊き上がりの印象は違ってきます。
ですので、米1合(150g)につき水190~210gで調整していきます。
今回は、米1合(150g)につき水200gの分量で、
ですので米3合で水600gに浸漬させました。
そして5℃で120分経過したものが、下の写真です。
ついでに、この時に備長炭を漬けて、pH9程度に調整しています。
米は白くなり、しっかり水分を含んでいる事が分かります。
では、次に米に火を入れて加熱、米を炊いていきます。
やっと炊ける。
米の最適な加熱温度、加熱時間と最適な鍋とは?
実際に米に火を入れていく前に、理論をまとめて、最適な加熱、炊き方にせまります。
気になる部分として、加熱温度、加熱時間というものを確かなものにしたいです。
過去の記事で穀物の低温調理についてふれた事があります。
低温調理と向き合う!野菜や果物の低温調理の理論を学んでみた!で、
「穀物に多く含まれるアミロースは、93~105℃程度まで溶けない為、低温調理はできない。」と書きました。
しかし、またこの記事で、野菜や果物を低温調理する意味は本当に無いのかとせまり、調べた結果、低温で酵素を働かせて低温調理のメリットを引き出す事を見出しました。
ですので、米も低温で酵素を働かせてメリットを引き出す事ができるのかと調べてみると、これらの事について研究している論文をみつけました。
簡単にまとめると、
炊飯中、昇温途中で40℃、60℃、80℃の一定温度を15分間保持する条件での炊飯を行い、米飯の成分に及ぼす効果を調べた。
特に60℃の温度保持により全糖量、還元糖量が標準炊飯に比べて増加し、糖の分解も進んでいる事も示された。
遊離アミノ酸量においては40℃及び60℃の温度保持によって総遊離アミノ酸量が多くなったが、その増加量は糖類に比べると僅かであり、米飯の遊離アミノ酸量は炊飯過程において大きく変化しない事が示された。
その要因として、デンプンの加水分解に関与する酵素の活性はいずれも60℃付近で最も高く、また、基質となる米デンプンも60℃付近から糊化を開始し、温度保持中にも糊化が進行する事が予想される。すなわち、60℃の温度保持の間に高い酵素活性が維持される事、及びデンプンが糊化する事による酵素消化性の向上が同時に反映され、糖量が増加したと考えられる。
また、昇温速度を慢性にする事によって、米飯中の糖量は著しく増加した。
これは、酵素活性の高い温度帯(50~70℃)をゆっくり通過し、全体として酵素反応が起き得る時間が長くなる為に、より多くの分解が起こる事に起因すると考えられる。加えて、糊化温度の測定においては、昇温速度を遅くする事によって糊化開始温度がやや低くなり、60℃以下で糊化が開始した。すなわち、緩慢な昇温条件下では、酵素反応が最も盛んな60℃に達した際にはデンプンの酵素消化性が十分に高く、より加水分解が起こりやすくなっており、この事が緩慢な昇温条件下での著しい糖生成量の上昇をもたらしていると示唆された。
また、米飯中の遊離アミノ酸量に関しては、昇温速度に応じた著しい差がみられなかった。
今回示したような炊飯条件下では、遊離アミノ酸の明らかな増加をもたらすほどのタンパク質分解は起こらないことが考えられる。
その中において、米飯中の総遊離アミノ酸量は、40℃及び60℃の温度保持によって1.05倍程度と僅かながら有意に多くなり、60℃の温度保持のみで極めて顕著に生成量が増加したグルコース等の糖とは温度依存性が異なる傾向を示した。酵素活性の測定においても、糖加水分解酵素の活性が60℃で明らかに高かったのに対し、プロテアーゼ活性は40~60℃とやや低い温度帯で活性が高くなっており、この事が米飯の成分測定の結果につながっていると考えられる。
といっています。
この論文から、60℃をなるべく保持しながらご飯を炊けば、より甘いご飯が炊ける事が分かりますが、実際に60℃をなるべく保持しながら炊いてみると、炊きあがりのご飯は極端に柔らかいご飯になってしまいます。
これは何故なのでしょうか。
ここで、先に洗米の工程の時に参考にした論文の、炊飯の加熱に関わる箇所をみてみます。
簡単にまとめると、
沸騰に至るまでの加熱速度は水分の吸収と糊化の進行の両方に影響を及ぼす。
急速に温度上昇させると加熱に伴う米粒の吸水は遅れるが、次の沸騰状態の継続時間が長くなり、かたくて粘りの少ない米飯になる。
加熱速度が遅いと沸騰に至るまで時間がかかり、沸騰までに殆どの水が吸収されて、沸騰期を作る水は少なくなる。温度上昇中に溶出する固形分が付着し、光沢がなくてやわらかい米飯になる。
沸騰に至るまでの時間を約10分にすると先の二例の中間的な状態となり、加熱に伴う適量の吸水、沸騰期の適度な水の存在により、米粒の変化が好ましい状態に進んでいた。
といっています。
さらにこの論文には、炊飯の沸騰期の温度と、沸騰継続時間、さらに蒸らしについても述べていますのでみてみます。
簡単にまとめると、
沸騰期の火力を小さくしすぎると沸騰期の温度が僅かに低くなる。
このような条件で炊飯すると炊きあがった米飯中に含まれる遊離水が多く、グルコアミラーゼにより消化されて溶出する糖も僅かに少なく、米デンプンの糊化が遅れる事が示された。
また、圧力鍋を用いると逆に沸騰期の温度が120℃以上もの高温となり、表層部と中心部の膨潤度や糊化度の差が著しく、粘りが極端に強い米飯となった。
日常的に食するには粘りが強すぎる為、加熱温度が100℃前後になるよう加熱速度、加熱時問を調節する事で対処できた。
沸騰継続時間が15分以上の米飯では糊化度が94.5~94.7%であったが、5分の米飯では86.3%と低かった。
沸騰継続時間が15分以上になるとテクスチャー測定、赤外線水分計による脱水速度の値が似てきて、官能検査においても有意に好まれていた。
米飯粒の横断面を顕微鏡下で観察してみても、沸騰継続時間が短い米飯は中心部や周辺部の細胞構造がはっきりしているのに対し、沸騰継続時間が15分以上になると膨潤、崩壊が顕著になり、中心部までよく炊けている様子を認めた。
蒸らしの初期の段階も含めて98℃以上の温度に20分以上置けば、ほぼ同質の米飯が得られる事を確認した。
蒸らしとは、消火後10~15分蓋を開けずにそのままおく操作であり、鍋内は90℃近くに保たれており、鍋内の水分は急激には蒸発せず、一部は飯粒内に徐々に吸収されていく様子が観察された。
飯粒組織に取り込まれた水は蒸発しにくく、脱水速度が遅いという結果となり、赤外線水分計で得られる米飯からの脱水速度は飯粒表層部の水分の在り方を比較する点で有効な手段であった。
蒸らしている間に米飯粒の水分含有率や大きさの均一化、組織全体の膨潤や表層部の崩れが起こり、水っぼくなく、粘りや弾力のあるテクスチャーを持つようになった。
といっています。
以上とこれまでの事を全てまとめますと、
米の最適な加熱温度と加熱時間とは、60℃をなるべく保持するように約10分かけて沸騰までもっていき、98℃以上の温度に20分以上保持できるよう、沸騰温度は100℃前後にし、10~15分蒸らす。
という事が分かりました。
次に、実際にご飯を炊いていくわけですが、ご飯を炊くには鍋という調理道具が必要不可欠です。
しかし、鍋といえど、土鍋、鉄鍋、アルミ鍋、ステンレス鍋、ガラス鍋、ホーロー鍋、銅鍋等、思いつくだけでこれだけの種類があります。
では、これらの鍋の中で、どの鍋がご飯を炊くのに最も適しているのでしょうか。
これら鍋の大きな違いといえば熱伝導率があげられるでしょう。
先程示した、
米の最適な加熱温度と加熱時間とは、60℃をなるべく保持するように約10分かけて沸騰までもっていき、98℃以上の温度に20分以上保持できるよう、沸騰温度は100℃前後にし、10~15分蒸らす。
というのに適した鍋というと、ゆっくり温度が上がっていく熱伝導率の低い鍋が適しているように思います。
ではどの素材が熱伝導率が低いのでしょうか。
その答えを導くのにも、論文を活用していきます。
簡単にまとめると、
材質の異なる12種類の鍋をガス火とハロゲンヒーターで加熱、放冷して温度変化を調べたところ、形状、大きさ、構造の異なる鍋間にかかわらず、主要鍋素材の違いを色濃く反映した昇降温挙動が認められた。
構成素材の熱物性による区分と同様に
①アルミ、銅系鍋、②鉄、チタン系鍋、③セラミック系鍋
の3つに分類できた。
しかし、ステンレス鋼一アルミニウム多層鍋のような複合素材は、3区分のいずれにも属さず分類しにくかった。
ガス火上における鍋底の温度分布が均一で加熱むらが少なかったのはアルミ、銅系、
加熱むらが大きかったのは鉄 、チタン系とセラミック系であった。
表面加工鍋、多層鍋を含む全ての試験鍋で、昇降温時間、速度、温度差等の測定値と鍋底厚との間にかなり高い相関がみられた。
アルミ、銅系は昇温時問が長く、鉄、チタン系は昇温時間が短かく、セラミック系は昇降温時間が共に長い傾向がみられた。
アルミ、銅系鍋、ステンレス鋼一アルミニウム多層鍋は、ヒーター外にある鍋底面の昇温速度が速く、ヒーター上外の温度差が他の試験鍋に比べて小さかった。
といっています。
この論文から、セラミック系の底厚の暑い鍋が最も熱伝導率が低いという事が分かりました。
まさに、土鍋がそれにあてはまるでしょう。
という事で、
ご飯を炊くのに最適な鍋とは厚みのある土鍋という事がいえます。
では早速炊いていきます。
厚みのある土鍋に、しっかり浸水させた米と、その浸水させていた水を入れます。
ちなみに、鍋はこのようにかえしのついた鍋だと吹きこぼれません。
きっちり量った分量の水を入れているので、もし吹きこぼれたら、その分水分量が少なくなり、炊き上がりのご飯がかたくなってしまいます。
これを中火にかけていきます。
酵素活性の高い温度帯(50~70℃)をゆっくり通過させ、かつ沸騰するまでの時間が10分になるように、イメージも持って火力を調整します。
この土鍋でこの火力で、沸騰するまでちょうど10分程でした。
沸騰しているかは、蓋を取ってしっかり目で確認します。
その時、沸騰する前に一度、手早くサッと全体的にかき混ぜます
米の対流が起きてくれればいいのですが、この水分量だとなかなか対流は起こりません。
対流が起こらないと、米の火の通り、米の糊化にむらができていまいます。
ただ、この行為はリスクを伴います。
蓋を開けて混ぜている間に水分が蒸発してしまう事です。
水分が蒸発してしまうと、その分の水分量が少なくなり、炊き上がりのご飯がかたくなってしまいます。
ですので手早くサッと混ぜます。
混ぜたら蓋を閉め、沸騰させていきます。
この時温度が下がっていますから火は強火にし、沸騰時の温度を高めるようにしていきます。
蓋を取って沸騰しているのを確認したら、
火は弱火にし、10~15分。
この時間差はおこげの出来具合を左右します。
この土鍋で10分でおこげ無し、15分で程よいおこげが出来ました。
このくらいの厚みのある土鍋ですと、熱伝導率がとても低いので、なかなか温度が下がりません。
極々弱火にしないと、簡単に吹きこぼれてしまいます。
10分経ちましたら、もう一度強火にして10秒。
下がっている鍋内の温度を上げて、次の蒸らしのメリット、水っぼくなく、粘りや弾力のあるテクスチャーを持つようになる事を起きやすくします。
強火にして10秒経ちましたら、火を止めて、10分程蒸らしていきます。
蒸らしている間に米飯粒の水分含有率や大きさの均一化、組織全体の膨潤や表層部の崩れが起こり、水っぼくなく、粘りや弾力のあるテクスチャーを持つようになります。
これでご飯の炊き上がりです。
実食
いただきます!
まず、お米の艶々した光り輝くようなきらめきに目を奪われます。
そして、炊き立てご飯独特の香りに食欲がかきたてられます。
このご飯の香りはなかなか他の物からは香らないものですが、日本人のDNAには、いい匂いとして刻まれているのでしょうか。
このご飯特有の香りの主成分は、炊いている間に、お米に含まれるタンパク質が分解されてできたアミノ酸と、デンプンが分解されてできた糖が反応して生成された、カルボニル化合物というもので、100種類以上もの成分が集まった結果生み出されるものだそうです。
また、米糠の香りとご飯の香りでの共通な成分がかなり含まれているそうです。
そんな香りをかぎながら、ご飯を一口ほうばりますと、何とも言えない甘味が広がり、香りも口の中から鼻に抜けていく事で再び堪能する事ができます。
噛む度に、咀嚼する度に、甘味が口、舌いっぱいに広がります。
このご飯の甘味というものは、なかなか他の果物やスイーツの甘味とは違うもので、くどさ等全く感じず、幸せな感情を与えてくれます。
今回は白ご飯だけで、食べていますが、おかずと一緒にご飯をほおばると、また何とも言えない幸福感に見舞われる事は誰もが経験済でしょう。
どんどん食べ進め、茶碗に残ったお米一粒も残さない、残したくないという素直な感情で綺麗に食べ終えてしまいました。
ごちそうさまでした!
まとめ
今回、日本人の主食である米と向き合い、最適なご飯の炊き方、土鍋ご飯の炊き方にせまりました。
調べてみて驚いたのは、ご飯の炊き方に関する論文の数がとても多い事です。
やはりご飯という日本人に身近な食べ物であり、だれもが美味しいご飯が食べたいという想いがあるのでしょうか。
あらためてみると、ご飯というのは独特な調理法をします。調理法でいうと含め煮という調理法に近いのでしょうか。
さらにご飯は、炊飯器というご飯専用の調理機器があります。
それが、家電量販店の一角を占領し、金額もお手頃価格のものから高級なものまで幅広くとりそろっています。
この事からも、日本人にとってご飯というものは特別なものなのだと感じられます。
私が新しいお店を開き、料理を考えるにしても、このお米を使った料理は外すことはないでしょう。
炊き込みご飯にして、そこからその炊き込みご飯をいろんなバリエーションで召し上がって頂いたり、
いろんな事が考えられますが、お米料理というものは、大切にしていきたいと思います。
こうして、いずれ開く店への道のりが、また一歩踏み出されたのです。
10歩目
コメントはこちらからどうぞ