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【調理方法の研究】煮物に味が染み込む最適な方法とは?

煮物 -料理理論の研究


「煮る」という調理方法は難しい調理方法だと思います。

日本料理の修行の順番でも、お店によって異なりますが、
基本的に、下積みの「追い回し」から始まり、盛り付けをする「八寸場」、「焼き場」、「揚げ場」を経て、「煮方」となり、最終的に「立板」、「花板」を目指します。

何故、「焼き場」や「揚げ場」より「煮方」の方が立場が上なのかというと、「焼く」や「揚げる」という調理方法は、加熱と調味は分けて行われますが、「煮る」という調理方法は、加熱と調味を同時に行う必要がある調理方法で、それだけ技術を要するからだと聞いた事があります。

美味しい煮物の基準として、中まで味が染みているという事があると思います。
食事のレポートとして、煮物のレポートを求められた時、「中まで味が染みてる!」というフレーズは、お決まりのようで、確かに美味しそうに感じます。

あえて中まで味を染み込ませない煮物というのも、自分もしますし、ひとつの料理の表現方法としてあると思いますが、基本的に煮物は、中まで味が染みているというのが美味しさのひとつの基準だと思います。

では、どうすれば煮物を中まで味を染み込ませる事ができるのでしょうか?

今回は、これを考察したいと思います。

河野裕輔
河野裕輔

せまりますっ!


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煮物に味が染み込む最適な方法とは?

煮物に味が染み込む仕組みとは?

そもそも、何故食材を味を付けた調味液で煮ると、味が染み込むのでしょうか?

こんな事調べて分かるなかなぁと思いながGoogle検索してみると色々でてきました。
「煮物 味 染み込む 理屈」等で調べると、皆さん色々調べられており、それがとても勉強になるものばかりです。
今の時代はすごいですね。

例えばこちら。
はんぺんで有名な「株式会社 紀文食品」さんのホームぺージです。

こちらでは、「おでん」や「練りもの」の歴史や文化や科学について勉強できます。
その中で、おでんに味が染み込むという現象について科学的に説明されています。
おでんに味が染み込むという現象は、煮物に味が味が染み込む現象と同じと考えて、見てみます。

Q、おでんに味がしみ込むというのは、どのような現象なのでしょうか?

A、これは「拡散」と呼ばれる物理現象です。拡散とは、物質の濃度が高いほうから低いほうへと移動し、同じ濃度になろうとする動きのこと。
たとえば、おでんの汁(つゆ)と大根。つゆのほうがうま味成分や食塩の濃度が高いので、つゆから大根へと成分が移動していきます。しかし、大根には細胞膜があるので、通常、水分は移動しても他の成分は大根の中には入っていきません。ところが50~60度の温度になると細胞膜の機能が低下し、つゆの成分は細胞内へ拡散しはじめます。それはほかの野菜類も同じです。

つまり、野菜類は常温のつゆにただ浸けておくだけでは味がしみ込みませんが、加熱することで細胞膜の機能が低下して味がしみ込むというわけです。拡散は温度が高いほうが速くなります。

一方、焼ちくわやさつま揚など練りもの類は、うま味成分や食塩の濃度が汁(つゆ)よりも高いので、つゆのほうに味が移動します。練りもの類は煮すぎないほうがよいのはこのため。煮すぎるとうま味がなくなってしまいます。とくにはんぺんは内部に気泡が多く、温度が高いと気泡が膨張してしまうので温める程度で十分です。
ただし、流れ出すことすべてが悪いわけではありません。つゆに練りもののうま味成分が混ざり合い、それが野菜などにしみて、おいしさが増します。

つまり、

煮物に味が染み込む仕組みとは?

・物質の濃度が高い方から低い方へと移動し、同じ濃度になろうとする「拡散」と呼ばれる物理現象。
ただし、食材には細胞膜があるので、通常、水分は移動しても他の成分は食材の中には入らないが、50~60度の温度になると細胞膜の機能が低下し、水分以外の成分が細胞内へ拡散し始める。

という事です。

なんとなく仕組みが見えてきました。

他にも、煮物に味が染み込む仕組みについて調べてみると、色んな説が語られています。
例えば、
「煮物は浸透圧によって味が染み込む」とか、
「煮物は冷める時に味が染み込む」とかです。

次にこれらを検証していきます。


「煮物は浸透圧によって味が染み込む」という真否

「煮物は浸透圧によって味が染み込む」という理屈。

料理の説明で、「浸透圧によって食材に味が染み込み、美味しくなるんです。」という説明を聞きがちですが、これは間違いだそうです。

料理と浸透圧の関係について、とても分かりやすく説明されている記事を紹介します。

浸透圧について

浸透圧は、半透膜を介した物理現象です。
半透膜は水分子のみが通れる膜になります。非常に小さい孔なので砂糖や旨味成分といった分子量の大きい物質は通ることはできません。
濃度の異なる溶液を半透膜で仕切ると、希薄溶液側から濃厚溶液側へ水分子のみが移動します。このときの液面差を浸透圧と呼ぶわけです。
端的に言うと、濃さの異なる水溶液とそれを隔てる半透膜がなければ起こりえない現象と言えます。
基本的に、浸透圧によって生じるのは水の移動のみなので、砂糖、塩、うま味といった水よりも大きい分子は移動しません。

つまり、

「煮物は浸透圧によって味が染み込む」という真否

・浸透圧は、半透膜を介した物理現象。
半透膜は水分子のみが通れる膜で、うま味成分等の分子量の大きい物質はは通れない。
「煮物は浸透圧によって味が染み込む」という解説は正しくない。

という事です。


「煮物は冷める時に味が染み込む」という真否

「煮物は冷める時に味が染み込む」という理屈。

とても良く聞きますし、確かに煮物は次の日の方が美味しいと感じますし、カレー等も次の日の方が美味しいと感じます。

この煮物を作る上でのコツとして巷に広がっている理屈は、調べてみると多くの方がその真否を考察されています。

そのひとつとして、先程と同じ方のサイトの記事を紹介します。

はじめに

煮物は冷めるときに味が染み込むと言われて冷ましという操作を行うことで味がよくなることは広く知られています。
これに対する説明がイマイチ納得行かない。というのも物質の移動(拡散)は温度が高いほど早いとうのが一般的に知られた話だからです。

食材への吸着

食材は水分に満たされた多孔質の物体です。水に味覚成分が拡散することで味が染み込むわけですが、多孔質ということは吸着も起こっていると考えられます。

吸着は発熱をともなう平衡反応です。
固体 + 溶質 ⇆ 吸着 + 熱
水溶液中に溶けていた溶質は吸着によって固体表面に拘束されるため、運動エネルギーを失い発熱します。
ルシャトリエの原理より、熱を取ることで右に進む反応が進みます。つまり冷ますほど吸着量が増えるということです。冷ますと味がよく染み込むという煮物で起こる現象をリーズナブルに説明できそうな感じがします。
でもイオンとか水溶性の高い物質は吸着しないので本当に味として現れるのかってのは微妙に思えます。
水に溶けにくい香気なんかはこれで説明できそうですけど。

おわりに

冷めるときに味が染み込むというのは煮汁に漬けている時間に依存しているので調理後冷めたときに味がしみていたということから広まった通説だと思われます。
冷ましというプロセスを吸着という切り口でみるとうまく説明できそうですが、水溶性の高い味覚成分に適用できるかは不明です。風味が増すという説明にはなりそうですけど、それを裏付けるデータを取るに至っていません。というか家庭じゃこれくらいが限界じゃないかな。

つまり、

「煮物は冷める時に味が染み込む」という真否

・煮物に味が染み込む仕組みは、拡散という物理現象で、物質の移動(拡散)は温度が高いほど早いので、冷める時に味が染み込むという理屈は、拡散では説明できない。

・食材は水分に満たされた多孔質の物体で、その水分に味覚成分が拡散する事で味が染み込むわけで、そこには吸着が起こっていると考えられる。
吸着量は冷めるほど増えるので、冷める時に味が染み込むという理屈は、吸着で説明できそうだが、真否は不明。

・冷める時に味が染み込むというのは、煮汁に漬けている時間に依存しているので、調理後冷めた時に味が染みていたという事から広まった通説だと思われる。

という事だそうです。


その他、「煮物は冷める時に味が染み込む」という理屈の真否を書いている記事はたくさんあります。

これらの記事でも、つまり、

「煮物は冷める時に味が染み込む」という真否

・煮物に味が染み込む仕組みの拡散という物理現象は、温度が高い方が速いという化学の原則があり、実験的にも冷まさず煮込み続けた方が味が染み込んだ。
しかし、煮込み続けると食材は柔らくなり過ぎ煮崩れてしまう為、現実的には加熱を止める事になる。

という事だそうです。


なんとなく真否が見えてきましたが、最初に紹介した記事の「食材への吸着」という物理現象との関係性は気になります。
この記事の著者は、
「イオンとか水溶性の高い物質は吸着しないので本当に味として現れるのかってのは微妙に思えます。」
と言っていますが、ないとも言い切れないと思います。

他にも、私が調べた範囲で気になる事があります。
それは、榎園 豊治さん著書「日本料理の仕事大観 」に書いてあります。

日本料理の仕事大観 下巻

炊いた後の冷ます過程で味が入る。その理屈

炊いた後の冷ます過程で味が入る。その理屈として、おでんのはんぺんを例に挙げています。
はんぺんは、加熱すると膨らみ、冷めるとしぼみます。
食材は多孔質の物体ですので、その細孔にある水分が加熱によって水蒸気となり、その結果膨らみ、そして冷めると液体に戻るのでしぼみます。
そのしぼむ過程で、出汁がはんぺんに入り、味が入るというわけです。

確かに、この説明も一理あるように思います。
この本に書かれている事ではないですが、この説明と似たような事で、
食材の内部圧力は、加熱中よりも冷める時の方が低い為、出汁が侵入しやすいという説明も見た事があります。


という事で、「煮物は冷める時に味が染み込む」という理屈は、全てが間違いというわけではないように思います。


煮物に味が染み込む仕組みのまとめ

これまで、煮物に味が染み込む仕組みについて色々調べてみましたが、ひとつの物理現象が起こっているわけではなく、様々な物理現象が起こっており、そのどの現象が、どの程度関与しているのかというのは分かりませんでした。
しかし、なんとなくでも、煮物に味が染み込む仕組みについて理解できたと思うので、ここにまとめます。

煮物に味が染み込む仕組み

作用される物理現象

・物質の濃度が高い方から低い方へと移動し、同じ濃度になろうとする「拡散」と呼ばれる物理現象。
ただし、食材には細胞膜があるので、通常、水分は移動しても他の成分は食材の中には入らないが、50~60度の温度になると細胞膜の機能が低下し、水分以外の成分が細胞内へ拡散し始める。

・食材は水分に満たされた多孔質の物体で、その水分に味覚成分が拡散する事で味が染み込むわけで、そこには吸着という物理現象が起こっていると考えられる。
吸着量は冷めるほど増えるので、冷める時に味が染み込むという理屈は、吸着で説明できそうだが、真否は不明。

・食材は多孔質の物体で、その細孔にある水分は、加熱によって水蒸気となり、その結果食材は膨らみ、冷めると液体に戻るのでしぼむ。
そのしぼむ過程で、出汁が入り、味が染み込む。

・食材の内部圧力は、加熱中よりも冷める時の方が低い為、冷める時に出汁が侵入しやすく、味が染み込む。

・煮汁に漬けている時間に依存して味が染み込む。

作用されない物理現象

・「煮物は浸透圧によって味が染み込む」という解説は正しくない。
浸透圧は、半透膜を介した物理現象。
半透膜は水分子のみが通れる膜で、うま味成分等の分子量の大きい物質はは通れない。


以上、現時点での「煮物に味が染み込む仕組み」のまとめです。
今後も勉強し、新しく解明した事や間違い等があれば更新していきます。


煮物に味が染み込む最適な方法とは?

では、科学的に煮物に味が染み込む仕組みがある程度解明できましたので、その仕組みに習って、煮物に味が染み込む最適な方法を考察したいと思います。

煮物に味が染み込む最適な方法

・食材を丁度良い固さになるまで、食材の細胞膜の機能が低下するまで煮汁の中で加熱する。
食材が丁度良い固さになったら、加熱を止め、食材を煮汁に漬けたまま、なるべく高い温度を保ちながらゆっくり冷ます。

以上、現時点での「煮物に味が染み込む仕組み」から得られる「煮物に味が染み込む最適な方法」です。

正直、心もとないです。

しかし、考察した結果、言葉にすればするほど、煮物に味が染み込む最適な方法は、その食材毎に違うという事が目の当たりになり、言葉が少なくなってしまいました。

例えば、煮物に味が染み込む最適な加熱温度と時間とはどのくらいでしょうか?
食材毎の最適な加熱温度と時間は、このブログで色々な食材について考察しています。
そのどれもが違う温度と時間です。

他にも例えば、「株式会社 紀文食品」さんのホームぺージでも書かれているように、
「練りもの類は煮すぎない方が良く、煮過ぎるとうま味がなくなるが、ただし、流れ出す事全てが悪いわけではなく、つゆに練りもののうま味成分が混ざり合い、それが野菜等に染みて、美味しさが増す。」
という事も考えなければいけません。
これは練りものだけでなく、肉や魚や野菜にも言える事で、その食材自身のうま味を煮汁に流し出し混ざり合わせ、そのうま味が混ざり合った煮汁を再びその食材に染み込ませるという考えもあります。


やはり、「煮る」という調理方法は難しい調理方法です。
一概に「煮物に味が染み込む最適な方法」というのは言葉にできないかもしれませんが、こうして考察してみる事で、見えてくるものがあると思いますので、無駄ではなかったと思います。


真空調理とは?

煮物に味が染み込む最適な方法の番外編として、真空調理というものがあります。

真空包装機や「ガストロバック」という減圧加熱調理機により、食材の包装袋や容器内を減圧状態にする事により、食材の細胞内の空気が膨張し「スポンジ効果」を生み出し、この事により、出汁や調味液が食材内に入り込みやすい状況を作り出し、通常気圧に戻す際に食材内の空気が収縮すると同時に周りの調味液が強制的に吸収されます。


これら真空調理については、またさらに勉強し、別の記事でまとめようと思います。


まとめ

今回、「煮る」という難しい調理方法に着目し、煮物に味が染み込む最適な方法について考察しました。

科学的に考察しようと、色んな方が研究されていますが、「煮る」という行動について、ひとつの物理現象で成り立っているわけではなく、複数の物理現象で成り立っており、またその関与度も違ってくる為、一筋縄ではいかない印象を受けました。

これはどの調理方法にも言えますが、やはり、自分で実際に経験して、失敗や成功体験から得るコツというものは大事なようです。
ただ、このコツというものを言葉で理屈を伴って説明できれば、より自分でも理解できる事は言うまでもありません。
しかし、それはとても難しい事のようです。

そもそも、煮物の中まで味がしっかり味が染み込んでいるという状態が、煮物の目指すべきゴールなのか、本当に良い事なのかという疑問もあります。
あえて、食材の中まで味を染み込ませずに、その食材そのものの味を残した煮物というのも間違いではないように思います。

「煮る」というひとつの調理方法ですが、「煮物」というひとつの料理ですが、色々考えさせられます。

「煮物に味が染み込む最適な方法」について、不完全な考察になってしまいましたが、この考察自体が大変勉強になり、自分の理解も深まりました。
新たに「真空調理」という宿題も出てきましたし、これからまだまだ勉強が必要のようです。

河野裕輔
河野裕輔

勉強しますっ!

コメントはこちらからどうぞ

  1. はっとりん より:

    いやー、いつもかなり深掘りしててすごいです笑

    勉強になります( ¨̮ )
    魚の臭みを取る際に塩水処理を行なっているのですが、それが浸透圧の作用であることは知っていました。

    ただ煮物のように食材に味が染み込むとゆう過程にどんな作用が働いているのかは考えたことがありませんでした。

    食はほんとに奥深くて面白いです!

    • 河野 裕輔 河野 裕輔 より:

      はっとりんさん。ありがとうございます!

      今回は、「煮物は冷める時に味が染み込む」という事について、本当なのかな?という疑問がありましたので、調べてみました。

      本当、食は奥深いですね。
      今回も、結局「煮る」という行為は、複数の物理現象で成り立っているので、真相を解明という所までいけず、
      「煮物は冷める時に味が染み込む」という事は、関係ある物理現象もあるし、関係ない物理現象もあるという結論で、
      なんとも心もとない結論になってしまいました。

      ただ、その結論つけれないという事が、面白さだったりするので、こういう先の見えない奥深さを楽しんでいきたいですね。

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