今や、家庭にまで広まった低温調理。
自分の火入れ法を向上する為にも、向き合っていきます。
いきます!
低温調理と向き合う!
今回、低温調理と向き合ううえで、
「Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ 」
という書籍を参考にしました。
低温調理と向き合う前に、
向き合わないんかい!
低温調理より広い意味の加熱調理と向き合います。
こういう捉え方大事だよね!
そもそも食材に火を入れる目的は?
①栄養の消化吸収を補助する
食材は加熱すれば、消化しやすい構造に変性し、栄養素も放出されます。
②安全性を確保する
食材を加熱すると、細菌等の微生物を死滅させ、毒素の大部分も破壊できます。
③風味を引き出す
食材を加熱した時の香ばしさや、スパイス等は閉じ込められた風味を引き出します。
ヒトの脳の進化は加熱調理の登場が直接影響しているといわれている。
加熱調理で食材から吸収できる栄養が増え、
さらに柔らかくなるので食事時間も減り、
空いた時間で、考え事や、その他の営みに夢中になる時間が増えた。
ヒトの祖先にあたる類人猿は、起きている時間の80%を食事にかけるが、
私たちヒトが食事にかけてる時間は、起きている時間の5%だ。
うんちく出たぁ!
低温調理も、以上の事は踏まえているのでしょうか?
では、本題の低温調理と向き合っていきます。
いきます!
低温調理とは?
食材の温度を低温に保ったまま、長時間かけて加熱する事で、
食材の柔らかさと水分を保つメリットがある調理法です。
そのやり方は、様々で、
ステーキの焼き方を例にみてみると、
●オーブンで火を入れる、外に出し休ませる、
また入れるを繰り返したり、
●フライパンで火を入れる、火から外して、
アルミホイルに包んで休ませるを繰り返したり、
●炭火や薪火の上で、何度もひっくり返しながら火を入れたり、
これら全て、低温調理の食材の柔らかさと水分を保つメリットを狙ったやり方です。
その、低温調理の中で、
家庭にまで広まった要因のやり方があります。
食材をフィルム袋等に入れ真空密封し、
温度と時間を管理できる調理器で、
食材に応じた温度と時間で加熱する調理法です。
この調理法に最適な調理機器はいろいろありますが、
私は、 BONIQ(ボニーク)を使ってみました。
使ってみました!
BONIQ(ボニーク)とは、湯煎器のひとつで、液体を張った容器にセットし、
その液体を指定した温度で指定した時間保ってくれる、調理機器です。
そこへ、フィルム袋等に入れ真空密封した食材を入れれば、
その食材に対し狙った温度と時間で加熱できるという代物です。
BONIQ(ボニーク)を使う前に、
使わないんかい!
ここで、低温調理に対して2つの疑問が出てきます。
当然出てくるよね!
①低温で調理すると、なぜ食材の柔らかさと水分を保つメリットがあるのでしょうか?
②低温で調理して、食材の安全性は確保できているのでしょうか?
まず、①の疑問から探っていきます。
低温調理のメリットを引き起こす仕組みとは?
今回は、食材のなかでも、肉や魚をメインに考えます。
そもそも、肉や魚とは?
そこからひも解いて低温調理のメリットに結びつけて仕組みを理解していきます。
いきます!
肉や魚の構成成分は?
肉や魚は、
主に水(65~80%)と
タンパク質(16%~22%)と
脂肪(1.5~13%)と、
僅かな、グリコーゲン(0.5~1.3%)等の糖類や
ミネラル(1%)
から構成されています。
よって、
肉や魚の大部分であるタンパク質をどれだけ加熱調理するかによって、
硬い、柔らかい、パサパサ、ジューシー、
という食感は大きく左右されます。
では、さらにタンパク質を分類し、低温調理のメリットに対して、
タンパク質のどんな成分が、どのような影響を及ぼすのかを探ります。
肉や魚のタンパク質の構成成分は?
タンパク質は一般的に、3つに分類されます。
①筋原線維タンパク質
②結合組織タンパク質
③筋形質タンパク質
です。
食べるタンパク質の多くは、骨格筋と呼ばれる筋肉です。
それぞれのタンパク質が構成する筋肉の部分をみてみます。
①筋原線維タンパク質は、筋肉を構成する線維の部分。
主な成分は、ミオシン、アクチン等。
②結合組織タンパク質は、腱や筋膜など、筋肉を結合、支持する部分。
主な成分は、コラーゲン等。
③筋形質タンパク質は、筋肉の内容物のうち線維を除く溶液の部分。
主な成分は、酵素、ミオグロビン等。
ミオグロビンは紫がかった色をしているが、酸素と結びついてオキシミオグロビンになると赤色に変化する。肉に火が通っているのにピンク色に見えたり、肉汁が赤かったり、肉そのものが赤いのは、血液ではなくミオグロビンの為だ。
どや顔出たぁ!
さらに、加熱すると起こる変化を成分別にみてみます。
①筋原線維タンパク質 ミオシン、アクチン。
●ミオシンは、加熱により収縮し弾力が生まれ、咀嚼しやすい柔らかな食感に変える。
●アクチンは、水分を多くつかんでいるので、加熱による収縮で水分を外に絞り出してしまう。
②結合組織タンパク質コラーゲン。
●コラーゲンは、鎖状につながっているが、加熱により収縮し、さらに加熱する事で切れてゼラチン質になる。
③筋形質タンパク質 酵素、ミオグロビン等。
●加熱により変性しアクとして浮いてくる。
この中で、低温調理のメリットに大きく関係する成分は、ミオシン、アクチン、コラーゲンだという事がみえてきます。
よって、低温調理のメリットである食材が柔らかさと水分を保った状態というのは、
①ミオシンは加熱による収縮をし、柔らかな食感を生み
②アクチンは加熱による収縮はせず、水分を保ち
③コラーゲンは加熱による収縮をし切れて、ゼラチン質になっている
状態だといえます。
では、その状態にする為の加熱とは、具体的にどのようにすればいいのでしょうか?
それは、低温調理の特徴である温度と時間に鍵があります。
ありまぁす!
低温調理のメリットを引き起こす最適な温度と時間は?
低温調理のメリットである食材が柔らかさと水分を保った状態、
①ミオシンは加熱による収縮をし、柔らかな食感を生み
②アクチンは加熱による収縮はせず、水分を保ち
③コラーゲンは加熱による収縮をし切れて、ゼラチン質になっている
この状態になる加熱の温度と時間を、それぞれの成分別にみていきます。
しかし、陸上生物は海生生物よりも暖かい環境や熱波を生き抜く必要がある事等から、
動物はそれぞれ異なるバージョンのタンパク質を持つように進化してきました。
よって、タンパク質の科学的構造は、動物の種類と部位によって異なり、変性温度も異なります。
厳密には、動物の種類と部位別に、加熱の温度と時間をみていく必要がありますが、
ここでは、大まかに陸上動物と海生生物に分けてみていきます。
陸上動物では、
①ミオシン 50℃から変性し始める。
②アクチン 66℃から変性し始める。
③コラーゲン 40℃から変性し始めるが十分な時間が必要。68℃で短時間ではゴム状になる。70℃以上数時間でゼラチン質になる。
海生生物では、
①ミオシン 40℃から変性し始める。
②アクチン 60℃から変性し始める。
③コラーゲン 30℃から変性し始めるが十分な時間が必要。イカ等は35℃で短時間ではゴム状になる。70℃以上数時間でゼラチン質になる。
この事から、例えば陸上生物の最適な低温調理の温度と時間を導き出そうとすると、
50℃以上66℃未満の加熱で、ミオシンとアクチンの条件はクリアできても、コラーゲンのゼラチン化は見込めません。
70℃以上の加熱でコラーゲンをゼラチン化したら、アクチンが変性し、水分が抜け、パサパサします。
さらに具体的に、牛肉の最適な低温調理の温度と時間を導き出そうとすると、
コラーゲンの少ない牛もも肉等は、50℃以上66℃未満で良さそうですが、
コラーゲンの多い牛すじ肉等は、一概に〇〇℃といえないようです。
という事で、
①ミオシンは加熱による収縮をし、柔らかな食感を生み
②アクチンは加熱による収縮はせず、水分を保ち
③コラーゲンは加熱による収縮をし切れて、ゼラチン質になっている
この状態になる最適な加熱の温度と時間は、
〇〇℃で〇〇時間
というのは、動物の種類と部位によって異なり、
食材別に、それぞれ探っていく必要があります。
今後、このブログを通じて探っていきます!
では、低温調理に対しての疑問、
②低温で調理して、食材の安全性は確保できているのでしょうか?
の疑問も探っていきます。
低温調理で食材の安全性を確保する為には?
まず、食材の危険性とは?
食中毒です。
食中毒とは?
ヒトに感染する細菌・ウイルス、または毒性のある物質を、食品経由で摂取することで発症する腹痛・下痢・嘔吐・発熱などの疾病を、食中毒と呼びます。
つまり、食材の安全性を確保するとは?
食中毒原因菌に汚染されていない食材の確保や、
食中毒原因菌に汚染させない食材の保存はもとより、
食材を加熱する事により、食中毒原因菌を破壊させる事です。
では、例えば食中毒原因菌による汚染の恐れが高い食肉について、
どのくらい加熱すれば、安全性を確保できるのでしょうか?
それには、厚生労働省が定めている、食品の規格基準が参考になります。
それより抜粋して、食肉製品の製造基準をみてみると、
加熱食肉製品は、その中心部の温度を63°で30分間加熱する方法、又はこれと同等以上の効力を有する方法により殺菌しなければならない。
とあります。
ここで気になるのが、63°で30分間加熱する方法と同等の効力を有する方法です。
63℃以下で同等の効力を有する方法はあるのでしょうか?
その場合は、どのくらい時間が変わってくるのでしょうか?
それについて、丁寧にまとめてくださっている方がいるので、参考にさせて頂きます。
参考にさせて頂きます!
よって、
国が定めたその他の製造基準を満たしたうえで、
この方のサイトの情報で導いた温度と時間で加熱すれば、低温調理でも食肉の安全性は確保できているといえます。
まとめ
結局、BONIQ(ボニーク)使わずにまとめに入っちゃった!
今回、低温調理の主に理論と向き合っていきました。
この事により、
低温調理をする際の〇〇℃で〇〇時間を決める根拠がみえてきました。
今後、食材別に向き合って、低温調理を実践していきたいと思います。
こうして、いずれ開く店への道のりが、また一歩踏み出されたのです。
です!
追記
調理理論について学んでいくうちに、肉の低温調理について新たなメリットがみえてきましたので、その根拠となる論文とともに、ここに記載します。
肉の低温調理のメリットに関する論文
牛肉ロースを対象とし、脂肪含量、長期熟成、加熱方法と食味性の関係についてまとめている。
焼成法、ロースト、煮塾法、真空低温調理、電子レンジ加熱と比べた時に、真空低温調理がアミノ酸含量が最も多かった。
その理由は真空低温調理は60℃で加熱を行うため加熱中にプロテアーゼという酵素が働き遊離アミノ酸やペプチドが増加することが考えられるといっている。
肉の低温調理のメリットとデメリットに関する論文
肉の主な旨味成分は、グルタミン酸とイノシン酸。
グルタミン酸は調理温度帯による熱分解がないとされるが、水溶性アミノ酸のため加熱時に生じるドリップに流出する可能性が考えられる。
低温調理法は通常の調理法に比べタンパク質変性率が低いことが判明した。
この低い変性率が重量減少率を抑制、つまりドリップが少ない事、その事によるグルタミン酸残存量抑制につながるといっている。
低温調理法はイノシン酸分解酵素の活性温度帯滞在時間が通常の調理法よりも長いため、肉のイノシン酸残存率は低くなることが判明したといっている。
肉の低温調理のメリットが起こる仕組みは肉の熟成と同じ仕組みといえる根拠となる論文
肉のおいしさを構成している各要素が肉の成分の何によってもたらされているかを概説し、
さらに、各要素の熟成による変化の機序についてまとめている。
肉は熟成中に遊離アミノ酸やペプチドが増加する。
これはプロテアーゼによるタンパク質の分解で生ずるといっている。
この論文には低温調理についての記述はないが、肉の熟成による旨味成分の増加の仕組みと、低温調理による旨味成分の増加の仕組みが同じ事から、
肉の低温調理中には熟成と同じ作用が働いているといえる。
以上の事から、これまで低温調理とは、
食材の温度を低温に保ったまま、長時間かけて加熱する事で、
食材の柔らかさと水分を保つメリットがある調理法です。
と定義してきましたが、
さらに美味しさに関しても向上させるというメリットが期待できそうです。
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