スポンサーリンク

【低温調理の研究】低温調理とは?野菜や果物の低温調理の理論を学びます!



過去の記事で、肉や魚の低温調理の理論を学びました。

【低温調理の研究】低温調理とは?肉や魚の低温調理の理論を学びます!
今や、家庭にまで広まった低温調理。自分の火入れ法を向上する為にも、向き合っていきます。 河野裕輔 いきます! 低温調理と向き合う! 今回、低温調理と向き合ううえで、「Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ 」と...



肉、魚ときて、料理に欠かせない食材といえば野菜や果物です。
今回は、野菜や果物の低温調理の理論を学んでいきます。

河野裕輔
河野裕輔

レッツラゴー!



スポンサーリンク

低温調理と向き合う!植物編!

まず、植物にも低温調理は有効なのかという率直な疑問が浮かんできます。

河野裕輔
河野裕輔

低温調理する意味あるの?



今回も、低温調理と向き合ううえで、
「Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ 」
という書籍を参考にしました。



この書籍の植物の低温調理に関する箇所をみてみると、

肉は主にタンパク質と脂肪分からできているが、植物は主に炭水化物からできている。生焼けから靴底になってしまうまでの温度範囲が狭い肉と比べれば、植物の炭水化物はずっと許容範囲が広いのが普通だが、あまり長く調理しすぎると食感と色が損なわれてしまう。

とあり、
あまりメリットが感じられないような書き出しです。

しかし、植物が加熱によりどのように変化するのかというのを記載しているのでまとめていきます。



植物の加熱による変化

まずは、植物の構成成分をみてみます。

大根を例にみてみると、
水(95%)
炭水化物(4%)
と、水と炭水化物でほぼ構成され、
残りの1%を、脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラルで構成しています。

よって、
その植物の水分量のコントロールはもとより、
炭水化物の加熱による変化が、食感に大きく左右するといえます。

では、その炭水化物をさらに分類し、最も普通にみられる5種類の化合物別に、加熱による変化をみていきます。



その、最も普通にみられる5種類の化合物とは、
・セルロース
・リグニン
・ヘミセルロース
・デンプン
・ペクチン

です。



・セルロース
セルロースは、植物の細胞壁の主成分。
生の状態では人間には全く消化できず、ゼラチン化する温度は320℃~330℃。
調理中の化学反応を論じる際には無視していい。
(例外として、豆類を圧力調理する事によって、一部が分解する。)



・リグニン
リグニンは、主に木等にみられる成分。セルロース等と結合し、細胞壁に堆積し木質化を起こし、植物体を強固にする。
セルロースと同様、調理中にあまり変化しない。
その為、リグニンが多く含まれるアスパラガスの茎の根元等、歯の間に挟まったり、木を噛んでいるような食感を与える為、折り取るのがよい。



・ヘミセルロース
ヘミセルロースは、細胞壁中でセルロースやリグニンを束ねる役割をしている。
66℃~70℃の温度範囲から、酸、塩基、酵素によって容易に変化する。
柔らかい植物を調理する場合、食感を損ねない為に分解し過ぎないように気を付ける。



・デンプン
デンプンは、植物におけるエネルギー貯蔵庫。アミロースとアミロペクチンという成分から構成される。
水分のある状態で加熱されると、糊化する。
調理の際に把握しておきたい、糊化に関連する温度変化として、アミロペクチンが水分を吸収する温度、アミロースが溶ける温度、冷却されゲルとなって固まる温度等があるが、
アミロースとアミロペクチンの比率や、周囲の液体のpH等、環境要因によって変化する為、その植物、その調理法によってみていく必要がある。



ペクチン
ペクチンは、植物の細胞壁を結合し植物の組織を支えている成分。
pH1.5~3の酸性条件で60℃以上に加熱されると分解し始める。



これらが、植物の調理とどう関係するのか?植物を調理する為に必要な温度とは?

それは、その植物の組成にもとづき、その植物の組織中の水分量や、加工条件が影響するので、個々にみていく必要があります。

ここで、「Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ 」に記載されている、主な植物の調理する為に必要な温度を簡単にまとめていきます。



・根菜
デンプンを糊化させる為には水分が必要だが、じゃがいも等の根菜には水分が多く含まれる為、水分を気にする必要はない。
アミロペクチンが多く含まれる為、57℃~70℃程で糊化されるが、調理時間を現実なものにする為には、80℃以上で調理する。



・穀物
多くの穀物には糊化する為に十分な水分が含まれていない為、調理の際に水を加えなくてはならない。
穀物に多く含まれるアミロースは、93℃~105℃程度まで溶けない為、低温調理はできない。



硬い果物
りんごのような硬い果物を加熱により軟化させるにはペクチンを分解させる。
ペクチンは果物の酸度により変わるが60℃~100℃で分解する。



・水分の多い果物や野菜
ターゲットはヘミセルロースになり、それは66℃~70℃で分解する。



以上まとめましたが、
「Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ 」の著者は、実際には、植物を調理する際は、通常の方法で調理し過ぎに気を付けて熱湯で茹でているそうです。
なので、著者的には、植物を低温調理するメリットはあまり感じていないようです。

河野裕輔
河野裕輔

長々とまとめといて普通に茹でるんかい!



しかし、植物を低温調理する事によるメリットは本当に少ないのでしょうか?

私は諦めきれず、ネットを使って調べてみました。

すると、J-STAGEという様々な学術論文を読むことのできるサイトにたどり着きました。

ここで、植物の低温調理に関する論文を色々読んでいくと、メリットを感じる事ができる可能性が出てきました。

抜粋して簡単にまとめていきます。

J-STAGE トップ
学術論文の全文へアクセス-J-STAGEは、日本の学術ジャーナルを発信するオンラインプラットフォームです。



植物の低温調理のメリットとデメリット

植物の低温調理のメリットに関する論文

サツマイモを蒸した際のマルトース生成に及ぼす塊根のβ-アミラーゼ活性およびデンプン糊化温度の影響
J-STAGE

サツマイモの甘さに関わる主な糖質成分はフルクトー ス、グルコース、スクロース、マルトースであるが、なかでも後 2 者の占める割合が大きい。
このうちマルトースは、未加熱塊根には殆ど含まれず、加熱によって糊化したデンプンにβ-アミラーゼが作用する事により生成される。
したがって、デンプンの糊化特性や、β-アミラーゼの活性が加熱調理後のマルトース生成量に大きく影響する。
一般的な品種、系統では70∼75℃で糊化し始める、一方、β-アミラーゼは80℃を超えると活性が大きく低下する。それ故、サツマイモの加熱調理においては、70∼80℃の温度域にできるだけ長時間曝すことが甘みを増すために有効。



同じ野菜の低温調理のメリットに関し、捉え方が違う2つの論文

トマトの糖,有機酸,アミノ酸に与える加熱温度の影響
J-STAGE

トマトを、90℃、70℃、50℃で、それぞれ5分、10分、15分加熱し、
トマトの甘味に関わる糖の成分である、スクロース、グルコース、フルクトースのうち、スクロースが90℃において有意に増加し、
トマトの酸味に関わる有機酸の成分である、クエン酸、リンゴ酸が70℃において有意に減少し、
トマトの旨味に関わる遊離アミノ酸の成分である、グルタミン酸、アスパラギン酸の比率が呈味に重要であるとされているが、温度の違いによる有意な変化はなかった。
スクロースの増加は、グルコースとフルクトースの脱水縮合によるものや、デンプンやオリゴ糖の分解等が生じて起こった可能性があるといっている。
クエン酸とリンゴ酸の減少は、クエン酸とリンゴ酸はエネルギー代謝やアミノ酸の代謝に関わっている事から、それらの代謝経路の活性化に起因するといっている。
90℃で15分の加熱におけるスクロースの増加と、この温度と時間において有機酸の減少も認められた事から、90℃で15分が最適な加熱条件。



トマトの加熱調理によるグアニル酸生成およびその品種間差
J-STAGE

トマトの旨味に関わるグアニル酸は、加熱により有意に増加し、
25~100℃で比較したところ、50~60℃において最大のグアニル酸の蓄積が起こった。
これは酵素の働きによるもの。



植物の低温調理のデメリットに関する論文

蒸し温度の違いがキャベツのアスコルビン酸量に及ぼす影響
J-STAGE

キャベツを蒸し加熱し、100℃、70℃、50℃と比べ、70℃が一番アスコルビン酸(ビタミンC)が減っていた。
これは酵素が関与している可能性がある。



植物の低温調理の注意点に関する論文

野菜の加熱とペクチン質
J-STAGE

野菜を加熱調理するさい、途中で加熱を中断すると再び加熱しても軟化しにくくなる場合が多い。
野菜が長時間水に浸されたり、比較的高い温度(約60℃付近)で予加熱されたりすると再び煮沸しても軟化しにくくなる現象を硬化と呼ぶことにする。
硬化に及ぼす予加熱温度と時間の影響として、ダイコンでは、80℃以上では温度が高くなるほど速く軟化するが、70℃以下では生より硬化した。
60℃予加熱が最も硬化を起こしやすく、予加熱時間を長くするにしたがって硬さを増し、2~6時間で硬化は一段と明らかになった。
20℃ではほとんど硬化を起こさず、30~60℃では温度が高くなるほど、長時間加熱するほど硬化が増した。
70℃1時間予加熱しても相当硬化した。
80℃、90℃で予加熱したものは、予加熱しないで直ちに煮たものに比べて硬化していた。

このペクチンの硬化について、「Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ 」にも書かれているのだが、この論文の方が実験にもとづく具体的な数字がでている。



これらの論文をみていくと、酵素が低温調理のメリットとデメリットに関わっている事がみえてきます。

酵素とは、生体で起こる化学反応に対して触媒として機能する分子で、
例として、タンパク質を分解するプロテアーゼ、
デンプンを分解するアミラーゼ等があります。

酵素はタンパク質をもとに構成されています。
したがって、熱やpHによって変性して活性したり失活します。

一般に反応の速度は温度とともに上昇しますので、低い温度よりも高い温度の方が酵素の働きは良くなります。
しかし、温度が高すぎると、酵素が変性し、酵素の働きは悪くなります。

この酵素が作用を発揮する最適の温度のことを、至適温度というのですが、
この至適温度の目安として、
動物の酵素 35~50℃
植物の酵素 40~60℃
好熱性細菌 80~100℃以上
という数字があります。

この酵素の至適温度を目安として加熱調理すると、結果、低温調理になるので、低温調理と酵素は関わりがあるといえます。



これまで低温調理とは、

食材の温度を低温に保ったまま、長時間かけて加熱する事で、
食材の柔らかさと水分を保つリットがある調理法です。

と定義してきましたが、

さらに酵素の働きにも目を向けると、低温調理する事により、
野菜のデンプンの分解が促進され、甘味成分が増加したり、
肉のタンパク質の分解が促進され、うまみ成分が増加したりと、
さらなるメリットが期待できそうです。

過去の、肉や魚の低温調理の理論の記事にも追記して、肉の低温調理のメリットを記載しておきます。

【低温調理の研究】低温調理とは?肉や魚の低温調理の理論を学びます!
今や、家庭にまで広まった低温調理。自分の火入れ法を向上する為にも、向き合っていきます。 河野裕輔 いきます! 低温調理と向き合う! 今回、低温調理と向き合ううえで、「Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ 」と...



しかし、これらは酵素ひとつひとつによって働きと至適温度が違ったりする事等から、精密に実験しなければ確証を得る事ができません。
ですので個人で立証する事はなかなか難しいし、論文によっても捉え方の違いにより、結論が違ってくるのも事実です。

ですが、今後、自分の低温調理の実践による経験の蓄積や、論文等の情報の収集によって、もっと低温調理のメリットや可能性を明確にしていきたいと思います。

河野裕輔
河野裕輔

正直、難しくって大変だぁ~!



まとめ

今回、野菜や果物の低温調理の理論を学んでいきました。

始めは野菜や果物の低温調理のメリットが見えてこなかったですが、そこを疑問に思い、
さらに深く学んだ事により、低温調理のさらなるメリットが見えてきました。

ですが、そのメリットは酵素という難しい分野が関わっている事により、さらに調理理論を難解なものにしてしまいました。

しかし、その難解なものを立証する事により、自分の調理理論がより深まり、その理論にもとづく料理はさらに美味しくなっていくと思います。

学べば学ぶほど新たな疑問が出てきて、新しい可能性が見えてくるという体験を、今回実際に経験してしまって、それは難解な事をする事だけど、わくわくする事だと感じました。



こうして、いずれ開く店への道のりが、また一歩踏み出されたのです。

河野裕輔
河野裕輔

5歩目

コメントはこちらからどうぞ

タイトルとURLをコピーしました