料理に塩は欠かせません。
それどころか人間の生命活動に欠かせません。
全世界での塩の年間生産量は約2億8000万tだそうです。
ひとえに塩といえど、日本で手に入るだけでも、約4000種類以上の塩があるようです。
その中から、料理に最適な塩とはどのように選べばいいのでしょうか。
まずは、塩そのもののことを知らなくては、どう選べばいいのかわかりません。
ですので、塩の基礎知識を、Wikipediaや、公益財団法人塩事業センターのサイト、
それから、 塩について書かれている本はないかと探し出会った、
社団法人日本塩工業会理事の村上正祥さんと、
公益財団法人塩事業センター海水総合研究所の所長や、東海大学海洋学部非常勤講という経歴の橋本壽夫さんが書いた「塩の科学」という本。
さらに、橋本壽夫さんが開設された「塩の世界」というサイト。
これらをもとに塩の基礎知識を学びたいと思います。
https://ja.wikipedia.org/wiki/塩
その上で、記事を分け次の記事で
理論的に、約4000種類以上ある塩は何が違うのかを見極め、その違いが料理にどのような違いを生むのか、というのを考え、
料理に最適な塩、料理によっての塩の選び方、といったものに、実際に様々な種類の塩を食べ比べながら、せまりたいと思います。
塩は百肴の将、酒は百薬の長!
塩の基礎知識
塩の原材料
塩は原材料別に、海水塩、岩塩、湖塩、天然鹹水塩、と分類することができます。
しかし、そのどれもが起源をさかのぼると海水にたどりつきます。
海水塩
海水を何らかの方法で濃縮、結晶させた塩。製法にもよって異なるが、苦汁(にがり)が含まれることが多い。世界の沿岸地域で生産される。
岩塩
地殻変動で大地に囲まれた海が、長い年月を経て地中で結晶した塩。土壌の成分の影響で色付いたものが多い。基本的にナトリウム構成比は高め。
湖塩
塩分濃度の濃い湖で採取される塩。イスラエルの死海やボリビアのウユニ塩湖が有名。乾期にしか収穫できないので生産量は多くない。
天然鹹水塩
天然鹹水とは、地下水が岩塩層を溶解して濃い塩水となり地下に存在するものをいう。
(旧塩専売法で、鹹水とは、海水または鹹泉に操作を加えた液体で、その含有固形物に塩化ナトリウムを100分の50以上含有し、15℃における比重がボーメ5度以上のものをいう。)
天然鹹水が泉となって地表にでれば「塩泉」であり、人工的に井戸を掘ったのが「塩井」(えんせい)である。
大陸の内陸部である中国四川盆地、ドイツなどで、塩を含んだ塩化物泉の温泉・地下水からの製塩(塩井)が行われ、井塩(せいえん)が製造されている。日本では、福島県の大塩裏磐梯温泉や長野県の鹿塩温泉などで小規模ながら温泉から製塩が行われている。
日本で最も多い塩は海水塩ですが、全世界で見れば、その生産量は塩全体の3割ほどにすぎません。
全世界で最も多い塩は岩塩で、その生産量は塩全体の6割ほどにのぼります。
日本で岩塩は採れません。
塩の製造方法
日本では岩塩としての資源がなく、固まった塩資源は採れません。
また、年間降水量も世界平均の2倍であることから日照時間が比較的長い瀬戸内地方や能登半島など、一部地域以外は塩田に不向きです。
このため、塩を作るには、もっぱら海水を煮詰めて作られます。
これは、天日干しに比べて、燃料や道具などが必要になるためコストがかかり、大規模な製塩には向かない方法です。
海水から製塩するには、直接海水を煮詰めて食塩を得るより、一度、濃度の高い塩水を作ってから煮詰めたほうが効率が良いです。
この濃い塩水を鹹水(かんすい)と言い、この作業を採鹹(さいかん)、また煮詰める作業を煎熬(せんごう)といいます。
塩の製造工程は、原材料から濃い塩水の鹹水を作る、濃縮・溶解という採鹹(さいかん)工程と、
その鹹水を煮詰めて結晶化させる、晶析という煎熬(せんごう)工程を経て、製品化されます。
この濃縮・溶解の方法と、晶析の方法は様々あり、それぞれの方法の組み合わせで、製塩法が分類されます。
日本の製塩法の歴史
古代の日本の製塩法は、文献や民俗資料から推測されています。
・古代
海藻を利用する「藻塩焼き」とよばれる方法でしたが、やがて砂を利用して濃い塩水を採取して煮つめる方法に移行しました。初めは海浜の自然のままの砂面で濃縮を行う「自然浜」で、8世紀ごろにはこの方法による相当な規模の塩産地が存在したことが知られています。
・鎌倉時代末期
濃縮池に溝、畦畔等がつくられるようになり、「塩浜」の形態が整ってきました。塩浜は原料海水の補給方式によって、「揚浜」と「入浜」とに分けられます。
煮詰め工程には、あじろ釜、土釜、石釜、鉄釜などが使用されました。
・江戸時代初期
気候、地形等の立地条件に恵まれた瀬戸内海沿岸を中心に開発された「入浜式塩田」が普及発達し、いわゆ「十州塩田」(製塩の中心地が瀬戸内海周辺の10ヶ国だったためこう呼ばれた)が成立しました。
入浜式塩田と平釜によって構成されたこの方法は、近代に至るまで変わりませんでした。
・昭和のはじめ
平釜に替わって蒸気利用式塩釜、立釜が導入され、まず、煮詰め工程に改革がおこりました。
・昭和28年ごろ
濃縮工程に「流下式塩田」が導入され、永年つづいた入浜式塩田にとって変わりました。
・昭和47年4月以降
従来の水分を蒸発・除去する方法から、海水中の塩分を集める「イオン膜」が導入され、全面的にこの方式に切り換えられました。
・平成9年4月
1905年に施行されて以来92年間続いた塩専売法が廃止され、新たに塩事業法が施行されました。塩製造者が増え、様々な方法で塩づくりが行なわれています。
イオン交換膜製塩法とは? 化学塩ではなく体に有害ではありません!
現在、日本でイオン交換膜製塩法で生産されている塩といえば、公益財団法人塩事業センターの食塩がそれにあたります。
イオン交換膜製塩法と、何も知識がなく言葉だけで見ると、化学的に作られた塩という印象を受けてしまいそうです。
これについて、橋本壽夫さんは、サイト「塩の世界」で、
先日、NHKテレビの番組が塩について触れ、その中で『専売制のもとでつくられていた塩は海水から化学反応でつくった塩』という表現がありました。また、海水からイオン交換膜製塩法によってつくられている塩は化学塩であり、純粋な塩化ナトリウムで体に悪い、という話も聞いたことがあります。生活用塩(旧専売塩)は化学反応によってつくられている化学塩で、体に悪い、ということなのでしょうか?その反面、自然塩は味が良く体にも良い、という話を聞きますが、本当でしょうか?真偽のほどを教えてください。
という疑問の解説なされていました。
ここに、紹介し、化学塩やイオン交換膜製塩法の原理といったものを理解していきます。
広辞苑によりますと化学反応は化学変化と同じで「物質を構成する原子の結合の組み替えを伴う変化」となっております。化学反応を製塩について説明しますと、塩酸とカ性ソーダが反応すると塩と水ができます。
現にこのような塩は、廃棄物焼却炉の燃焼ガスをカ性ソーダで中和することによって作られていますが、食用にはもちろん使われておりません。
イオン交換膜濃縮法の原理
イオン交換膜はイオンを通すという特殊な機能を持たせた膜です。そのために小さな孔が開いていますが、孔の周囲には+または-に帯電した原子団が付いています。+に帯電した原子団のある膜を陰イオン交換膜、-に帯電した原子団のある膜を陽イオン交換膜といいます。
ところで、+と-は引き合い、+と+または-と-は反発しあうことは磁石の実験で良く示されることです。これと同じで+に帯電しているナトリウムイオンは-に帯電している陽イオン交換膜に引きつけられますが、+に帯電している陰イオン交換膜とは反発します。
今、例えば、陽イオン交換膜(ナトリウムイオンを引きつけ塩素イオンをはじく膜)で海水を(濃い液)と真水(薄い液)を仕切ります。海水にはナトリウムイオンや塩素イオンがあり、真水にはありませんので、それらのイオンは拡散で真水の方に移動しようとしますが、ナトリウムイオンは移動できますが、塩素イオンは移動できません。陰イオン交換膜で仕切った場合には、移動できるイオンは反対になります。 イオン交換膜のこの性質を利用すると、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜で海水を仕切り、その間に真水を入れておきますと真水の中に陽イオン交換膜を通してナトリウムイオンが、陰イオン交換膜を通して塩素イオンが拡散で入ってきます。この溶液を煮詰めれば誌が出てきます。これは物理現象で塩ができることを表しています。
もちろんナトリウムイオンだけでなくカリウム、カルシウム、マグネシウムの各陽イオンや硫酸イオンの陰イオンも入ってきますが、孔の大きさを調整することによりある程度、イオンをより分けられます。いってみれば、非常に精密な電気的な性質を持ったフィルターで濾過していると考えられます。
ところで、この方法には問題があります。自然の拡散だけではイオンの移動速度が遅くて話しにならないことと、海水の濃度以上には濃くならないことです。そこで、これに電圧をかけて電流を流してやりますと、イオンが電流を運びますのでイオンの移動速度が速くなります。電圧のかけかたでイオンの移動速度は変わり、真水の中の塩濃度も変わってきます。高い電圧でたくさんの電流を流せば、経済的に濃い塩水が採れるようになります。
このようにイオン交換膜濃縮法の工程では、イオン交換膜で仕切られた所にイオンが物理的に移動して濃縮されるだけで化学反応は起こっておりません。化学反応では反応生成物が出てきますが、イオン交換膜濃縮法では反応生成物は出てきません。海水を濃縮しても、塩水を濃縮しても同じ塩が出てくるだけです。
話しが長くなりましたが、これでイオン交換膜濃縮法による製塩は、化学反応を利用して合成する方法ではなく、物理現象を利用する方法で、したがって、できた塩は化学塩ではないことが分かっていただけたと思います。
イオン交換膜製塩法によって海水を濃縮する過程では、ナトリウム以外の他のミネラルも塩水に入ってきますので、出来上がった塩の純度は昔の塩田製塩時代の塩の純度と比べて大差はなく、純粋な塩ではありません。この場合、純度は乾物基準で示すべきで、湿物基準で示すと水分含有量によって大きく異なり、誤解の原因になります。
イオン交換膜製塩法による塩は食品衛生上の問題は何もなく、有害な重金属は塩田時代の塩や、岩塩や天日塩のような自然にできる塩よりも少なく、現在のように自然環境の汚染が進んでいる状況下では、一層安全な塩です。塩からナトリウム以外のミネラルを摂取して健康に役立てようとの考え方は、医薬用を目的とした特殊な塩以外、実際には成り立ちません。
以上で、イオン交換膜製塩法でつくられた塩は化学塩ではなく、体にとって有害でないことが分かっていただけたと思います。
これまで、イオン交換膜製塩法によって製造された塩は純度が高く、薬品のような塩でナトリウム以外のミネラルが少なく、化学塩と称して体に悪いと特殊製法塩業界やマスコミから科学的根拠に基づかないで誹謗されているようです。
しかし、近年はその傾向も収まり、事実に基づく報道もなされているようです。
橋本壽夫さんは、さらに、イオン交換膜製塩法の塩に関する報道を検証をされていました。
4月5日にNHKで放送された[“魔法”の調味料「塩」の最新活用法]はかなり説得力のある放送であった。イオン交換膜製塩法で作られた塩について「化学的に作られているという噂を聞くが…」と言うゲストに対して、NHKアナウンサーは「そうではないのです」と否定して、イオン交換膜法でも海水から作っており、海水からの塩づくりを説明した。筆者が見てきた限り、NHKが化学塩でないと明確に放送したのは初めてである。
この放送は塩の味、うまさの違い、料理における塩の上手な使い方を内容としていた。精製塩から苦汁入りの塩まで、いろいろな塩をいろいろな料理に使う数多くの料理人に「どのような塩が美味しいか」と聞いたが、規則性を見出すことができなかった。
それぞれにこだわりの塩を使っており、味は個人の主観の問題であるので、とやかく言えないとの妥当な結論であった。
「自然塩」という言葉は使えません! 食用塩公正競争規約について
巷では、イオン交換膜製塩法によって製造された塩は、精製塩、
天日塩田製塩法などのよって製造された塩は、自然塩と呼ばれていることはあると思います。
しかし、この「自然塩」や「天然塩」といった言葉の使用は禁止されています。
2008年4月に「食用塩の表示に関する公正競争規約および施行規則」が官報告示されました。
規約の概要
1)店頭販売される塩には原材料名と製造方法が表示されます。
2)「自然塩」、「天然塩」という言葉は使えません。
3)ミネラルたっぷり、健康・美容に良いなどの表示は使えません。
4) 地名の付いた商品名の場合、その地名以外の場所の原材料を使用したり、違う場所で製造している場合は、「他の場所で原材料が作られている」または「違うところで作られている」旨を商品名と同一視野内に記載しなければなりません。
5)「海塩」、「天日塩」、「藻塩」、「焼き塩」、「岩塩」、「湖塩」および「フレーク塩」は、特定用語として使用基準が定められています。
6)2015年4月施行の食品表示基準により、栄養成分表示が義務化されました。
7)食品、香辛料などが入った塩(ゴマ塩、ガーリックソルトなど)は規約の対象外です。
8)この規約は特定の用語の使い方、不当な表示の定義などを規定しています。
9)この規約を満たした適正表示の会員の商品には「しお公正マーク」が付けられ、消費者をごまかすものではないことを示しています。
「自然塩にはミネラルが多く入っており、体に良い」は期待できません! 塩のミネラルについて
さらに、巷にあふれる情報として、
「自然塩にはミネラルが多く入っており、体に良い」ということがいわれていると思います。
しかし、これについて橋本壽夫さんは、サイト「塩の世界」で否定されています。
究極の自然塩とは海水そのものを総て蒸発させて作った塩と考えていますので、海水中に塩(塩化ナトリウム)が2.5 %あるとすると、塩を10 g作るためには海水が400 ml要ることになり、その中に含まれるミネラル量を総て表したものです。通常の製塩法による自然塩ににがりが5 % 付着していると仮定しますと、そのミネラル量の5 % が塩に付着していることになります。しかし、その塩は一日当たりの摂取量の約1/10しか摂りませんので、結局0.5 %に当たるミネラル量が摂取できることになります。ただし、海水がにがりとなって濃縮されてくるまでに酸化鉄や炭酸カルシウム、硫酸カルシウムはほとんど析出してしまいますので、にがり中には鉄とカルシウムはないことになります。
以上のように考えてくると、通常の自然塩から摂取できるミネラル量は、一番多いミネラルであるマグネシウムでも人間が一日当りに必要とする量の1 %以下であり、他のミネラルはほとんど期待できないことが分かります。
この6月に東京都消費生活総合センターは、市販されている52銘柄の塩(センタ-塩、特殊製法塩、輸入されている自然塩を含む)の分析値から、効果的なミネラル摂取を塩に期待することはできない、と発表しました。この報告の中でナトリウム以外のミネラルで分析値の最大は貝カルシウムを添加して強化した塩のカルシウムですが、この場合でも所要量の2.8 %にしかならなかったからです。
結局、ミネラルは体の中に微量あって重要な働きをしておりますが、塩から摂取できるのは微々たる量であり、むしろ塩を上手に使い美味しい料理にして、いろいろな食べ物をバランスよく偏食しないように食べることで、必要なミネラルを摂取することが重要であると思います。
参考までに、ご質問にあります「自然塩にはミネラルが多く入っており、体に良い」といった表示で販売されている商品については成分量表示が義務付けられておりますし、自然・天然という表現については根拠がなく安易に使われていることから、総合センタ-としては適切な表示基準の検討を国に要望しているようです。
塩の結晶形
塩の結晶は通常立方体です。
しかし、製塩法や結晶の成長方向、結晶の形を変える性質のある物質(媒晶剤)の添加により様々な形に変化します。
一方向に成長すれば柱状塩となります。この形状の商品はありません。
二方向に成長すれば板状になります。この結晶は液表面で成長します。フレーク塩として商品となっており、塩の花とも呼ばれています。
この結晶過程で塩の重さで沈みながら液面で接している縁(辺)が成長していくとトレミー塩というミラミッド型の四角錐の塩ができます。中は空洞になっており、四角な酒杯のようです。完全な形の物は飾りとしての価値があります。
トレミー塩を作るときに回転運動を与えると円錐形になります。
三方向に成長すれば立方体の塩になります。これは撹拌された液中で製造され、通常市販されている塩です。
あまり撹拌されない平釜で製造されると、立方体の塩が接着しあって全体としては無定形の塩(凝集晶)となります。
メキシコ等の気象条件の良い塩田で作られた天日塩の結晶は巨大な凝集晶です。液中で成長中に回転状態で撹拌すれば、立方体の角が取れて一時的には14面体の塩となるが、やがて丸くなった球状塩となります。一般的に粒径が大きくなると球状になります。
下には特殊な場合で稜方向の成長を示しています。この方向の成長で樹枝状となり、全稜方向に成長すれば骸晶(立方体の骨格)となります。
産業的に塩を作る場合には、以上のような形で塩の結晶ができてきます。
しかし、結晶の形を変える晶癖剤、例えば、フェロシアン化カリウムを加えると、結晶の形は樹枝状となります。
樹枝状塩は国内では製造されておりません。樹枝状塩を作るために添加するフェロシアン化カリウムが食品添加物ではありませんので、食用塩としてはありません。しかし、塩の固結を防止するために食用ではない塩に使われることはあります。
塩の「結晶の形」、「結晶の大きさ」、「水分」が違えば、
塩の「サラサラ性」、「かさばりやすさ」、「くっつきやすさ」、「溶けやすさ」が違ってきます。
岩塩の多様な色とその理由
現在採鉱されている岩塩は2、3億年まえに地殻変動で内陸に閉じ込められた海水が蒸発してできたものです。
塩が析出し、岩塩として成長していく過程で結晶の中にいろいろな不純物が閉じ込められたり、結晶格子に構造的な欠陥ができたとき、岩塩に色が着きます。
塩の性質と作用と塩の用途
塩の用途は非常に幅広く、食用から工業用まで、医薬用から融氷雪用まで直接的、間接的に使われ、14,000件もあると言われております。
それは、塩の性質と作用により、各種用途に利用されます。
塩の性質と作用
・塩の色
一粒一粒は無色透明な塩の結晶。それがたくさん集まると、表面がでこぼこしているのと同じ状態になり、光が乱反射をおこして白く見えるようになる。
・塩の融点・沸点
塩の融点は約800℃。塩の沸点は約1400℃。
・塩の硬さ
塩の硬さは石膏と同じくらい。モース硬度で2.0~2.5、石膏と方解石の中間ほどの硬さ。
モース硬度とは…物体の硬さの程度を示すものさし。
・塩水のpH
不純物を含まない塩水は中性でpHは7だが、塩の種類などによってわずかに変化する場合もある。
・塩の溶解度
塩は水の温度にほとんど影響を受けず、1リットルの水には約300g溶ける。
溶解度とは…ある物がその他の物、例えば水などに溶けている時、水に溶けている量の程度を濃度といい、もうこれ以上溶けない状態(飽和溶液)の時の濃度を溶解度という。
・比重
塩の比重は2.16。体積が1cm³の塩の結晶の重さは、1cm³の水(4℃)の2.16倍、つまり2.16g。
塩はたくさんの結晶が集まった粉体なので、結晶と結晶の間にすき間ができる。
同じスプーン1杯の塩でも、すき間の多い少ないによって、重さがかわる。
食塩や精製塩などのサラサラした塩は、小さじ一杯で約6g、しっとりした塩は小さじ一杯で約5gとなる。
・氷点降下
塩水では、濃度が高くなるとともに氷点降下が大きくなり、飽和溶液では、マイナス21.3℃まで凍らない。
・浸透圧による脱水作用
塩水の浸透圧は濃度2%だと1.72MPaなので、この濃度以上の塩水に野菜を漬けると、野菜の浸透圧は1.0MPa以下のものがほとんどなので、浸透圧の差によって野菜の細胞内の水分が細胞の外に引き出されて脱水される。
料理における塩の機能と役割
塩は塩味を示し、塩味を示しながら食用にできる物質は塩しかありません。
つまり塩は味付けにおいて代替物のない物です。
料理における塩の機能と役割をあげていきます。
料理における塩の機能と役割
1、調味
塩味を示すだけでなく、他の味との関係でいろいろな効果を発揮する。
a)対比効果
スイカに塩を振りかけて食べると、甘味が強調されて美味しく食べられる。エビやカニの美味しさも塩を加えることによりうま味が強調される。
b)抑制効果
塩を加えることにより酢の酸っぱい刺激が抑えられる。「塩梅がよい」という言葉は、塩を加えることにより梅の酸っぱさを抑えちょうどよい美味しさになった時に使われる。
2、食欲増進
塩は生理的に不可欠な物であることから、塩が欠乏すると塩欲求を起こす。草食動物ではこの現象が顕著に現れる。
3、防腐作用
塩は浸透圧により野菜や魚肉の細胞から水分を引き出す脱水作用がある。これにより防腐効果が生ずる。耐塩性微生物、好塩性微生物を除いて一般的な微生物は脱水作用のために細胞の原形質分離を起こし死滅するか繁殖できなくなる。
4、食品の物性変化
a)タンパク質溶解作用
ある種のタンパク質は1~2%の薄い塩水に溶解する。魚肉では筋原線維を構成しているタンパク質が塩水で溶け、高分子間で架橋結合が起こり網目構造を形成し、加熱により足の強い(歯ごたえのある)ゲルとなる。これがかまぼこをはじめとする魚肉練り製品である。
小麦粉では、その中にあるタンパク質が水を入れてこねられることによりグルテンを形成し、それが塩で溶かされこねられることにより粘りのあるパン生地やうどんができる。
b)タンパク質凝固作用
塩はタンパク質を変性させ、それにより凝固させる作用がある。塩分濃度が高いと常温でもタンパク質の変性凝固は起こり、低いと加熱により凝固が起こりやすい。
c)ミネラルの置換作用による効果
調理で塩を入れることにより食品中のマグネシウムやカルシウムが塩のナトリウムと置換されるため、食品の改善効果が現れる。
カリフラワーやジャガイモをゆでる時に塩を入れると、細胞膜を強固にしているペクチン酸カルシウムのカルシウムがナトリウムと置換して細胞が軟らかくなるので、野菜を軟らかくゆでられる。
湯豆腐では塩を入れることにより、すが入ったり硬くなるのを防ぐ、マグネシウムやカルシウムがナトリウムと置換するためである。
5、発酵調整作用
味噌、醤油のような発酵調味料の製造、漬物、塩辛、チーズのような発酵食品の製造、パンドウの酵母菌増殖では塩分濃度を調整することにより浸透圧による脱水作用で殺菌の増殖を抑え、耐塩性菌、好塩性菌の増殖速度を調整して発酵が正常に進むようにする。
6、料理の見栄え向上
a)酵素阻害作用
塩は一部の酸化酵素の働きを止める作用がある。とくにリンゴなどの果物に含まれるポリフェノール酸化酵素の阻害作用が強い、このため、0.2%程度の塩水でリンゴの褐変を防止することができる。
b)ミネラルの置換作用による効果
例えば、エダマメやホウレンソウを1~2%塩分濃度の塩水でゆでると、あざやかな緑色(クロロフィルの色)が維持され、1晩置いてもあまり退色しない。
7、酸化防止作用
酸化によってビタミンCが破壊されることを防ぐ酸化防止作用がある。野菜や果物ジュースにする時、0.5%くらいの塩分濃度になるように塩を加えると、ビタミンCが酸化されないで保護される。
塩は塩味を示すだけでなく、他の味との関係でいろいろな効果を発揮する。と書きました。
これをさらに掘り下げ、塩味と甘味、酸味、苦味、うま味、それぞれに及ぼす影響をあげていきます。
塩味が他の味に及ぼす影響
1、甘味に及ぼす影響
塩味は甘味の増強剤となる。甘い汁粉の中に少し塩を入れると、甘味が強く感じられる。
塩味はイオンチャンネルえお通じて感じ、甘味は味覚レセプターによって感じるので、最初に塩味の信号が脳に達し、つぎに甘味の信号が脳に達するので、甘味が増強されて感じるのではなかろうかとのこと。
2、酸味に及ぼす影響
塩味は酸味の抑制剤となる。寿司の酢に少し塩を入れると酸味が抑えられて柔らかな酸味が感じられる。酸味による塩味への影響については、少量の酢酸添加により塩味は強められるが、多量の酢酸添加によって塩味は減少する。
3、苦味に及ぼす影響
苦味は塩の添加により減少する。逆の効果も同様にあり、塩味は苦味の添加により減少する。
4、うま味に及ぼす影響
うま味物質であるグルタミン酸はアミノ酸の一種であり、イノシン酸とグアニル酸は核酸の一種である。これらのうま味物質はナトリウム塩である。例えば、グルタミン酸カリウムではうま味が感じられない。
塩味はこれらのうま味物質が示すうま味の強化剤となる。カニのうま味はいくつかのグルタミン酸と核酸の組み合わせで出現するが、塩がないと強いうま味は感じられない。
逆にうま味は塩味を抑制する。例えば、醤油の塩分濃度は17%前後もあり、この濃度の食塩水は非常に塩辛くなめられないが、うま味物質がたくさん入っている醤油であれば塩辛さが抑えられるのでなめられ、全体的に美味しく感じられる。しかし、うま味のグルタミン酸ナトリウムと塩味との関係では、グルタミン酸ナトリウムにより塩味が強められるという報告もある。
動物における塩の機能と役割
生命は海から発生し、海で進化した生物はやがて陸上で生存できるように進化してきました。
したがって、人間の体液は海水組成によく似ているといわれることがあります。
しかし、これについて橋本壽夫さんは、サイト「塩の世界」で、
実際に海水と血漿と組織間液と羊水と細胞内液とで組成を比較しているのをみると、それぞれには同じ元素が含まれているが、組成比はかなり異なっていることがわかる。
と、いっています。
しかし、人間の生命活動に欠かせないことに変わりません。
まず、人体における塩の機能と役割をあげていきます。
人体における塩の機能と役割
1、浸透圧の維持
細胞の機能、形状を正常に維持するには細胞外液と細胞内液の浸透圧が同じでなければならない。浸透圧に寄与する細胞外液中の主要電解質は塩化ナトリウムであり、細胞内液中の主要電解質はリン酸水素二カリウムである。陽イオンだけについて述べると、腸管から吸収されたナトリウム、カリウムは血液中に入り、それぞれはさらに細胞の中に入っていくが、ナトリウムは細胞膜にあるナトリウムポンプによって細胞外に出される。ナトリウム、カリウムとも腎臓で排泄される。腎臓が血液中のナトリウム濃度をほぼ140mEqに維持することにより体液(血液や組織間液)の浸透圧は一定に維持され、それに見あった浸透圧で細胞内液も維持される。
2、酸・塩基平衡の維持
炭水化物や脂肪が分解されると炭酸ガスや有機酸、アミノ酸になり、血液は酸性になるはずであるが、血液のpHは約7.4でわずかにアルカリ性となっており、酸・塩基平衡が維持されている。これに寄与しているのが重炭酸ナトリウムで、この物質の緩衝作用によりpHが大きく変動することなく一定に維持されている。体液のpHが7.35以下になるとアシドーシスになり、7.45以上になるとアルカローシスになる。いずれの場合もからだにとって重大な障害となる。
3、消化液の成分、その他
消化液中の酵素によって食べ物は分解される。例えば胃液では塩酸の塩化物イオンにより酵素のアミラーゼやペプシンが活性化され澱粉やタンパク質が分解される。胃液の他に消化液には膵臓、胆汁などいろいろとあり、それらの中には電解質として塩化ナトリウムや炭酸水素ナトリウムが入っている。
刺激が伝達されるのは、神経細胞膜にあるナトリウムやカリウムのイオンチャンネルを通してイオンが出入りすることにより活性電位が生じ、電気信号を発生して、その信号を他の細胞に伝えていく神経伝達の役割を果たしている。
炭水化物が分解されたグルコース、タンパク質が分解されたアミノ酸が調粘膜から吸収されるにはナトリウムと結合する必要がある。栄養素と結合して細胞内に入ったナトリウムはナトリウムポンプで排出され、また栄養素と結合して吸収される。
加えて、人間以外の動物における塩の機能と役割について述べますと、
野生動物は塩を求めて塩なめ場に集まります。飼育されている家畜、家禽類には、塩の塊をなめさせたり、飼料に塩を混合して与えています。人間では塩欠乏症を起こすことはありませんが、飼育動物では塩欠乏に陥ることがあります。とくに乳牛や草食動物では摂取量が多いので注意する必要があります。
動物に与える塩が果たしている役割と機能は、基本的には人間と変わりませんが、家畜や家禽にはとくに生産性との関りで、健康維持、食欲増進、ミネラル補給用担体としての役割が大きいです。
塩と健康
生命の維持に塩は不可欠な物質です。それにもかかわらず、過剰な塩摂取量は高血圧症の原因となると考えられて塩が悪者にされ、近年では胃癌の原因にされるまでに話題が広がり、いっそう塩と健康に関心が持たれるようになりました。
さらに、90年以上続いてきた塩専売制度が廃止された最近では、ミネラル摂取や美味しさに対する関心が高くなり、各地で汲み上げられている海洋深層水の開発とも重なって、それらの関心事を塩に期待する報道が盛んです。
橋本壽夫さんは、塩と高血圧、塩と胃癌の相関関係はない事や、減塩の危険性について指摘しています。
まとめ
今回、料理に欠かせない塩と向き合い、日本で手に入るだけでも、約4000種類以上の塩がある中から、
料理に最適な塩を選ぶべく、まずは塩そのもののことを知らなくてはと思い、塩の基礎知識を学びました。
さすがに、料理さらには人間の生命活動に欠かせない塩であって、基本情報ということだけでも、とても膨大なもので、まだまだ掘り下げられる事はありますが、ある程度の基本情報は学ぶことができたと思います。
しかし、まだまだ勉強不足だとは思いますので、随時、新たな知識、有用な知識を学び次第更新していきたいと思います。
塩の基礎知識だけで膨大な量の記事になってしまいましたので、塩についての記事は2本に分けてせまりたいと思います。
次回の記事で、今回の記事で学んだ、塩の基礎知識を活かし、
理論的に、約4000種類以上ある塩は何が違うのかを見極め、その違いが料理にどのような違いを生むのか、というのを考え、
料理に最適な塩、料理によっての塩の選び方、といったものに、実際に様々な種類の塩を食べ比べながら、せまりたいと思います。
こうして、いずれ開く店への道のりが、また一歩踏み出されたのです。
22歩目!
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