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【塩の研究②】料理に最適な塩とは?塩の味比べをします!

塩-料理理論の研究



料理に塩は欠かせません。
それどころか人間の生命活動に欠かせません。

全世界での塩の年間生産量は約2億8000万tだそうです。
ひとえに塩といえど、日本で手に入るだけでも、約4000種類以上の塩があるようです。

その中から、料理に最適な塩とはどのように選べばいいのでしょうか。

まずは、塩そのもののことを知らなくては、どう選べばいいのかわかりません。
ということで、前回の記事で、塩の基礎知識を学びました。

今回は、前回の記事で学んだ、塩の基礎知識を活かし、
理論的に、約4000種類以上ある塩は何が違うのかを見極め、その違いが料理にどのような違いを生むのか、というのを考え、
料理に最適な塩、料理によっての塩の選び方、といったものに、実際に様々な種類の塩を食べ比べながら、せまりたいと思います。

河野裕輔
河野裕輔

この世で一番うまくて、まずいもの!



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塩の選び方の理論

まずは、これまでで学んだ塩の基礎知識を基に、約4000種類以上ある塩の違いの見極めと、その違いが料理にどのような違いを生むのか、というのを考えます。

公益財団法人塩事業センター海水総合研究所の所長や、東海大学海洋学部非常勤講師をなされていた、
橋本壽夫さんは、

塩の品質は粒度、粒度分布、粒形、かさ密度などの物理的性質化学組成によって分けられます。

と、いっています。



塩の物理的性質が塩の品質に及ぼす影響

橋本壽夫さんは、塩の物理的性質が塩の品質に及ぼす影響として、以下のことを述べています。

例えば、塩を水に溶かす場合、粒径が小さければ、すぐ溶けてしまいますが、大きいとなかなか溶けません。また、スナック菓子に塩をまぶして付けようとすると、小さな粒の塩でないとお菓子には付きません。しかし、同じ付ける塩でもクラッカーとかプレッツェルにつける塩は大粒の塩でなければなりません。塩粒をカチッとかみ砕く感触と、口の中で塩味が混ざって広がっていく感触を楽しむお菓子であるからです。

以上の事をまとめますと、塩の物理的性質が塩の品質・性質・特徴に及ぼす影響は、

塩の物理的性質が塩の品質に及ぼす影響

・小さい粒
溶けやすい。付着性が高い。味の余韻が短い。口の中でスッと溶ける。

・大きい粒
溶けにくい。付着性が低い。味の余韻が長い。カチッと歯応えがある。

と、いえます。



塩の化学組成が塩の品質に及ぼす影響

塩の品質に関わるもう一つの要因である、化学組成の違いについて、橋本壽夫さんは、製塩法の違う4つの塩について述べていますので、みていきます。

その前に、大前提として、「海水の化学組成はどこも同じである」といっています。

海水は濃度に濃い、薄いの差はあっても、組成は基本的にどこでも同じである。厳密に言えば、生物活動に伴う成分、例えばリン、珪素、窒素などは表層水では少なく、深層水では多いが、製塩に関しては、いずれも海水濃縮の過程で析出する元素ではないので、得られた塩の組成に伴う品質には差がないと考えて良い。

その上で、製塩法が塩の化学組成に及ぼす影響をみていきます。

製塩法による塩の化学組成の違い

・天日塩田製塩法による塩
天日塩田海水濃縮法(逆浸透法による海水予備濃縮法でも同じ)による塩の科学的組成は濃縮度によって変わる。かん水の組成が硫酸マグネシウム系があり、それが析出する前で、製塩工程を終了する。カルシウムは硫酸カルシウムとしてのカルシウムで胃酸でも溶けないので体内に吸収利用されない。他の夾雑不純物として硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムなどがある。

・イオン交換膜製塩法による塩
イオン交換膜電気透析法で得られたかん水では、二価イオンであるカルシウム、マグネシウム、硫酸イオンが少くない。したがって、かん水を濃縮して製塩工程を終了させるのは塩化カリウムが析出する前となる。また、硫酸イオンが少ないことから硫酸イオンは総てカルシウムと結合して硫酸カルシウムとなり、カルシウムが余剰イオンとして残り、塩化物イオンと結合して塩化カルシウムとなる。
以上のことから、イオン交換膜製塩法による塩の成分は海水塩田濃縮法よる塩と比べて、カルシウム、マグネシウムが1/3程度に減り、カリウムが2.5倍程度に多くなっている。夾雑不純物としての化合物は硫酸カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウムなどがある。

・溶解再製法による塩
天日塩や岩塩を溶解して作られた塩では、通常、かん水中のマグネシウム、カルシウム、場合によっては硫酸イオンを除去するかん水精製工程を通りますので、得られる塩の純度は非常に高くなる。 しかし、特殊製法塩と言われる塩でかなり多量に製造されている塩は純度が低い。

・岩塩
岩塩の起源は海水ですが、岩塩鉱床の形成時代と形状および岩塩の品質は産地によって大きく異なります。通常、純度は90%から96%位と低く、希に100%に近い高純度の岩塩もあります。純度の低い岩塩は黒色、赤色、桃色、青色、黄色、緑色と様々な色をしています。高純度の岩塩は無色透明であるか、白色です。高純度の岩塩はそのまま食用にできますが、純度の低い岩塩は溶解して天日塩と同様にかん水を精製してから煮詰めますので、純度は非常に高くなります。

では、その化学組成の違いが、塩の品質・性質・特徴に及ぼす影響は何なのでしょうか。



化学組成とは、ある物質を構成する元素や化合物などの化学成分が、それぞれどれくらいの比率で含まれているかを示したものをいいます。

塩の化学組成は、どの製塩法で作られた塩も、大元をたどれば原料は海水ですので、海水の化学組成に近いと思われます。

海水の成分

上の表のとおり、海水には約3%の塩分を含み、その塩分は、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウムの順の比率で構成されています。

このナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウムといった成分が、塩の味にどのような影響を与えるのかというのが、
化学組成の違いが、塩の品質・性質・特徴に及ぼす影響といえると思います。



ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウムといった成分が、どのような味がするのかというのは、
以前の記事「水と向き合う!料理に最適な水とは?ミネラルウォーターを飲み比べてみた!」で学んでいます。

この記事で、水の栄養成分が、水の味にどのような影響を与えているのか調べていますので、今一度みていきます。

水の栄養成分が水の味に及ぼす影響

タンパク質、脂質、炭水化物
天然水にはいずれも含まれない。

カルシウム
苦味と塩味の混ざったほのかなえぐ味が特徴。含有量が多いと硬水ならではの重さを感じさせるが、適量であれば水の甘さを感じさせる。渋味の成分と結びつきやすく、渋味や苦味のある食材と合わせるとまろやかな味に仕上がる。

マグネシウム
強い苦味が特徴だが、少量ならば甘味となって表れる。硬水の味はマグネシウムによるところが大きく、多く含まれる水はしっかりとした飲みごたえがし感じられる。目安としては50~150mg/ℓで苦味が表れやすい。

ナトリウム
強い塩味が特徴だが、水の場合50mg/ℓ以上入ってないと塩味としては感じない。ヨーロッパの軟水にはナトリウムが比較的多く含まれているものもあるが、逆に甘味を引き立て後味にやわらかな甘さがふわりとやってくる。

カリウム
酸味が特徴だが、多いと塩味や苦味となる。ただし、カリウムが多く含まれる自然の水は少ない。にがりの成分でもあるため海洋深層水には含まれることが多い。

サルフェート
硬水に多く含まれる。硫酸塩という硫黄に近い成分で、日本では温泉水に多く含まれている。マグネシウム同様、苦味として味に影響がある。むくみや二日酔いを緩和する働きがあり、デトックス効果を期待して飲まれることも多い。

これは、水の栄養成分が水の味に及ぼす影響ですが、塩の成分が塩の味に及ぼす影響も同ことがいえると思います。

製塩法による塩の化学組成の違いをもう一度まとめると、
岩塩はその産地によって大きく異なりますが、岩塩から鹹水を精製して煮詰めるなどして、純度は非常に高くなるので、ナトリウム以外のミネラルは低いようです。
イオン交換膜製塩法による塩、いわゆる精製塩は、天日塩田製塩法による塩、いわゆる自然塩よりも、ナトリウム以外のミネラルは低いようです。

ナトリウム純度が高い塩というのは、ナトリウムの味である塩味が立つので、その塩の味は力強い塩味が特徴といえます。
ナトリウム以外のミネラルが比較的含まれている塩というのは、カルシウムやマグネシウムやカリウムなど、苦味や酸味が特徴だが、少量なら甘味を感じる成分が入っているので、その塩の味は塩味がまろやかに感じ微かな甘味が特徴といえます。



ただし、このことは、
橋本壽夫さんはじめ、いろいろな科学者さんたちに否定されていました。

いわゆる自然塩と精製塩では、明確な味の違いはないということです。



塩の違いによる味への影響についてのさまざまな意見

橋本壽夫さんは、サイト「塩の世界」で、塩の違いによる味への影響について述べています。

塩の違いによる味の違いは非常に難しい問題です。誰にでも判るほど明らかに違うのであればよろしいのですが、わずかな違いを識別できる人とできない人がいるレベルの味の違いを、すべての人が明らかに識別できるかのごとくに思いこませて商品を差別化したように見せかけ、販売しているものが多いように思います。味の違いが主観的なレベルから客観的なレベルに変わるには、塩の組成成分がどの程度変わればよいかについては、系統的、総合的に研究されたデータはほとんどありませんが、いくつか断片的に研究されたデータがありますので、それらを紹介しましょう。

東京都消費生活総合センター調査結果
テストした試料は表-1に示す6種類です。
①精製塩、②食塩、③自然海塩海の精、④赤穂の天塩、⑤赤穂あらなみ料理塩、⑥長者のうまい塩
表-1には、その他として、この後で述べる報告に使われた塩を併せて書いてあります。食味テストには30人が参加しました。
テストは塩そのものをなめて見分けることと、塩を使って表-2に示す調理品(ごはん、すまし汁、白菜の漬物)を食べて見分けることで、同じ塩を使った試料2点と違った塩を使った試料1点の合計3点の内で、どれが違うか、また違っておればどちらが好きかを選ぶ方法で行われました。
テスト1では、違う塩を使った試料を見分けることで、①と③の組合せ、①と④の組合せとしました。つまり、精製塩とにがり成分の多い塩を比較したのです。
いずれも見分けられなかった人の方が多い結果がほとんどでしたが、唯一見分けられたのは①と③で作った漬物を食べたときでした。①と③の塩をなめて見分けられた人と見分けられなかった人の数は同じでした。すなわち、精製塩と海水から直接作られた塩との比較では漬物以外はほとんど見分けられなかったのです。
テスト2では、3種類の塩を比較して、好ましい順位をつけてもらうことで、②と③と④の組合せ、②と⑤と⑥の組合せとしました。つまりイオン交換膜製塩法による製品である食塩とにがりの多い塩、あるいは食塩と比較的にがりが多い、または乳酸カルシウムや炭酸カルシウムを加えた塩とを比較したのです。
②と③と④の組合せでは、塩をなめた結果では明らかに食塩が好まれていませんが、ごはん、すまし汁、漬物となると大きな違いはありませんでした。
また②と⑤と⑥の組合せでは、かなり結果はバラツキ、食塩はごはんでは一番好まれましたが、他ではいずれも好まれていない結果でした。
⑤には通常塩に入ってこない物が添加されていますので、結果が違うのはある程度理解できますが、⑥は、③や④よりもにがりが少ないにもかかわらず、好みの差が大きく出ていますので理解しにくいのですが、比較の中に特殊な塩が混じることにより影響を受けているものと考えられます。

(財)ソルト・サイエンス研究財団の研究報告
(財)ソルト・サイエンス研究財団では、2年間にわたるプロジェクト研究として「共存成分を異にする食塩の食品科学的研究」を行いました。その中に塩の味や調理品の味、加工食品の品質について報告されていることのいくつかを紹介します。
① 塩の味
塩の味については女子栄養大学の松本先生が担当しました。8種類の塩をそれぞれ塩化ナトリウム濃度が0.7%(澄まし汁の塩分濃度に近い)になるように調整した塩水を試料として、対照基準に同じ濃度の塩化ナトリウム溶液を味わって、二点比較で塩味、苦味、旨味、渋味、後味、くどさ、金属味、まろやかさ、を非常に弱いから非常に強いまで、あるいは非常に悪いから非常に良いまでを、-3から+3までの7段階で点数を付けて評価する方法で行いました。実験に参加した人々は訓練された男性10名、女性14名の合計24名でした。
東京都の調査と比較できるように表-1に成分を示した3種類の塩味の結果については、赤穂の天塩で「くどさ」については「弱い」という表現で他の二つの塩とは違う有意な差がある他は、3種類の塩とも有意さがありませんでした。「まろやかさに」ついては、いずれも対照基準の塩化ナトリウムとは「強い」という表現で有意な違いがありました。三種類間の違いは分かりませんでした。
② 漬物の味
漬物の味については宇都宮大学の前田先生が担当しました。表-1に示す3種類の塩を使い、漬物は白菜漬、たくあん、しば漬の3種類でした。漬物の味の違いは味の素中央研究所の訓練された20名で、各漬物について3種類の塩のうち2種類を一対として比較評価する方法で調べられました。二つの試料について色の好ましさ、歯切れの好ましさ、塩かどの強さ、酸味の強さ、苦味の強さ、うま味の強さ、まろやかさ、総合評価の8項目を0から+1.0まで、および0から-1.0までの範囲で点数を付けて評価しました。
識別実験では、白菜漬とたくあんで20人中それぞれ15人と17人が有意に正しくCとA、AとBを識別できたが、他の漬物による試料比較では有意に識別できなかったことを表しています。嗜好実験では、有意にどちらかを選ぶということはなく、にがり成分が入った方が好まれるという結果はありませんでした。
結論として、最近の漬物はすべて調味されているので、塩の違いが品質に現れることは少ないとしています。

魚の塩干物も今後の研究課題
魚の塩干物を製造するときに特殊製法塩を使用すると、製品の仕上がりや味が良くなることは確かにあるようですが、詳しいことは解っておりません。私も「アジの干物」製造業者から同じようなことを聞いたことがあり、研究しなければならない課題であると思っております。
参考までに(財)ソルト・サイエンス研究財団で一般公募の研究に助成した結果を紹介します。京都大学の坂口先生はマダイとハマチを使い5種類の塩(表-1には2種類しか示しておりません)の10%溶液に約24時間浸け、48時間強制乾燥させた試料を7人で評価しました。評価は精製塩を使った製品を基準として、塩味、旨味、「こく」、総合風味の強度および歯ごたえとしました。また、味に関係のある遊離アミノ酸や核酸関連物質も分析しております。
結果は次の通りでした。マダイについては、塩味と旨味はどの塩を用いても差はありませんでした。「こく」と総合風味については、精製塩よりも他の塩の方がいずれも優れていました。しかし、他の塩との相互間の違いは明らかではありませんでした。
歯ごたえについては、どの塩でもほとんど差はありませんでした。
ハマチについては、塩味、旨味、総合風味および歯ごたえとも塩の種類については差がありませんでした。「こく」と総合風味について差が出た結果では、(遊離アミノ酸を代表させた)全窒素量が精製塩の場合よりも明らかに多かったのですが、その中の非タンパク質性の窒素量には差がありませんでした。
水産品の干物にはアジ、サバ、イカ、カマス、エボダイと多くの種類がありますが、塩の違いは魚によって違っているのかも知れません。どのくらいのにがり成分があれば、味覚に関するどのような要素がどのように影響を受けて良くなるのかは、これから明らかにされなければならない問題です。



これらを読み意見をまとめてみると、
いわゆる自然塩と精製塩の違いによる味への影響は、明確な違いがあるとは言えないが、ないとも言えない。
と、なってしまいます。

これは私の見解ですが、これらすべて官能検査という、人間の感覚を用いて製品の品質を判定する検査を行っていますので、いくら訓練されている方とはいえ、どうしてもその人の主観が入り、絶対的な物とはいいにくいように思います。

以前の記事で、「おいしさ」と向き合う!ということで、「おいしさ」と科学的に向き合い、
「おいしさ」とは、人間が脳にイメージを描き出して知覚している。
と学んだことで、ヒトが「おいしい」と感じることは、とても曖昧なものという自分の想いから、
官能検査というのも曖昧なもののように自分は思ってしまいます。



さらに、この、
いわゆる自然塩と精製塩の違いによる味への影響は、明確な違いがあるとは言えない。
という意見は、さまざまなところでいわれています。



まずは、ピッツバーグ大学名誉化学教授であるロバート・ウォルクさんが書いた本
料理の科学① 素朴な疑問に答えます」。

ポップコーン用の塩と普通の塩は違う?
化学的に言えば、まったく違いはありません。何の変哲もない普通の塩、すなわち塩化ナトリウムです。しかし物理的に言えば、一般的な食卓塩よりも粒子が細かいか、粗いかという違いはあります。それだけの違いです。

「海塩」は普通の塩とどこが違うか
「海塩」と「ふつうの塩(食卓塩)」という言葉は、明確に異なる性質をもつ、明確に異なる二つの物質を意味して使われることが多いようです。ところが、実際はそんな単純なことではないのです。…
要するに、塩の性質を決めるのは、未加工の物質をどのように処理したかであって、どこで採れたかではありません。…
トマトのスライスなど、あまり水分の多くないものには、ものテーブルに出す直前に結晶が大きめな薄片の塩をふりかけると、塩が舌に当たって溶けるとき、あるいは派手噛みつぶされるとき、かすかな塩辛さがぷちぷちと弾けます。塩味が弾けて広がるこの感覚ゆえに、経験豊富なシェフは、このタイプの塩を高く評価するのです。食卓塩の小さな立方体の結晶は舌の上で溶けるのにずっと時間がかかるため、そういうわけにはいきません。このように、多くの海塩に食感の特質を与えるのは、海で採れたということではなく、結晶の複雑な形状なのです。

つまり、いわゆる自然塩と精製塩の違いによる味への影響は、結晶の複雑な形状による違いのみを述べています。



次に、1984年にアメリカで出版され、食品と調理に関する科学的知識が網羅されていることから一夜にして大ベストセラーになった「On Food and Cooking:The Science and Lore of the Kitchen」の内容をさらに充実させた2004年改訂版の翻訳書である
マギー キッチンサイエンス 食材から食卓まで」。

未精製海水塩は表面に付着した微量ミネラル、藻類や耐塩性菌を洗い落とす手順を踏まない。したがって、微量の塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムに加え、泥やその他の沈殿物も含むので結晶は鈍い灰色を帯びている(フランスの未精製塩は「セル・グリ(灰色の塩)」と呼ばれる)。味覚成分や芳香成分は時に微量でも感じられるうえ、未精製海水塩は不純物として有機物や無機物を含むので、精製塩よりも複雑な風味をもつこともあるが、塩を加える食材の風味でわからなくなる程度である。

つまり、いわゆる自然塩と精製塩の違いによる味への影響は、塩を加える食材の風味でわからなくなる程度と述べています。



さらに、女子栄養大学の松本仲子さんらの論文
各種食塩の調理に及ぼす影響」。

これらの塩類から食塩、精製塩、並塩、漬物塩(漬物のみ)、天塩の5種類を選び、戯味の程度および嗜好、料理に及ぼす影響等を官能検査により比較した。その結果、①各塩0.8%濃度水溶液で鍼味を比較したところ、並塩、精製塩、食塩はほぼ 同じ、天塩は1%危険率で戯味が弱いと判定された。また食塩の0.8%濃度に相当する天塩の鍼味濃度は0.85%であった。②0.8%濃度の各塩溶液に0.08%グルタミン酸ソーダを添加したところ、餓味強度のちがいは判別できなかった。③各塩の餓味の良さについては、精製塩が最も好まれ、以下並塩、天塩、食塩の順であった。④各塩を清汁、卵豆腐、塩味飯、きゅうりもみの各料理に使用し、色、味、テクスチャー、綜合などについて官能検査を行なったが、すべての項目において塩間には有意な差は認められなかった。⑤各塩を材料、漬け条件などを変えて漬物に使用したが 一定の結果は得られず、漬かり上りの状態は塩の種類以外の要因によって左右されることが多いであろうと考えられた。

つまり、いわゆる自然塩と精製塩の違いによる味への影響は、有意な差は認められず、餓味(からみ(塩の味))の良さについては、精製塩が最も好まれたと述べています。



塩の違いによる味への影響についての私の見解

以上、塩の違いによる味への影響について、いろいろな意見をみてきましたが、
どれも明確な違いがあるとは言えないという考えのようです。
これで、はたして結論付けていいのでしょうか。
しかしどれも主観的な意見のようにも思われます。
以上の意見に異を唱えるつもりはありませんが、
私の意見は、「塩の違いによる味への影響はある」と考えています。

私の体験的に、椀物、吸物など、鰹節と昆布の合わせだしに塩を加える時、いわゆる精製塩といわれる食塩で味付けしたものと、いわゆる自然塩といわれる塩で味付けしたものとでは、食塩で味付けたものでは、どうしても味が決まらないのです。
食塩で味付けたものは、塩味がたってしまい、それをどんな少量にしても、その塩味がたった感じというのは拭えないのです。
それに引き換え、いわゆる自然塩で味付けたものは、その塩味はまろやかさを保ち、椀物として味が決まります。
これは、いくら「いわゆる自然塩と精製塩の違いによる味への影響は、明確な違いがあるとは言えない。」といわれても、自分の体験によるものなので揺るぎようがありません。
ある意味、「明確な違いはない」とだれの意見も断言はしていないことから、「塩の違いによる味への影響はある」という自分の意見の可能性は、科学的にも残されているともいえると思います。



塩の選び方の理論のまとめ

では、前回の記事で学んだ塩の基礎知識と、それ塩の違いによる味への影響についての個人的見解をふまえて、
料理によっての塩の選び方の理論をまとめていきます。


塩の品質は粒度、粒度分布、粒形、かさ密度などの物理的性質化学組成によって分けられます。

塩の物理的性質が塩の品質に及ぼす影響

・小さい粒
溶けやすい。付着性が高い。味の余韻が短い。口の中でスッと溶ける。

・大きい粒
溶けにくい。付着性が低い。味の余韻が長い。カチッと歯応えがある。

塩の化学成分が塩の品質に及ぼす影響

カルシウム
苦味と塩味の混ざったほのかなえぐ味が特徴。含有量が多いと重さを感じさせるが、適量であれば甘さを感じさせる。渋味の成分と結びつきやすく、渋味や苦味のある食材と合わせるとまろやかな味に仕上がる。

マグネシウム
強い苦味が特徴だが、少量ならば甘味となって表れる。多く含まれれば重さを感じられる。

ナトリウム
強い塩味が特徴。

カリウム
酸味が特徴だが、多いと塩味や苦味となる。にがりの成分でもあるため海洋深層水には含まれることが多い。

サルフェート
硫酸塩という硫黄に近い成分で、日本では温泉水に多く含まれている。マグネシウム同様、苦味として味に影響がある。



塩を食べ比べる

これまでで、料理によっての塩の選び方の理論はまとまりました。
次に、実際にさまざまな塩を食べ比べ、味を確認し、その味と、今までに学んだ理論を基に、
どんな料理にどの塩を選べばいいのかというものを考えたいと思います。

こちらが、今回用意し揃えた塩です。
なるべく違った特徴を持ち、かつ手に入りやすいもので揃えてみました。

塩

画像左から順に説明していきます。

青い海
産地 沖縄県糸満市
原材料 海水
工程 逆浸透膜、平釜
形状 凝集晶
水分量 標準
栄養成分表示(100g当たり) ナトリウム35.6g、カルシウム200~500㎎、カリウム50~150㎎、マグネシウム105~500㎎、食塩相当量90.6g
糸満市沖合の海水を、逆浸透膜で濃縮した後、25mプールほどの大きさの平釜で煮詰めて結晶化させる。
塩のテイスティングをする際に「基準の塩」として使われる。



粟国の塩 釜炊き
産地 沖縄県島尻郡粟国村
原材料 海水
工程 天日、平釜
形状 凝集晶
水分量 しっとり
栄養成分表示(100g当たり) ナトリウム28.2g、カルシウム550㎎、カリウム550㎎、マグネシウム1530㎎、食塩相当量71.7g
粟国村近海から汲み上げた海水を採かんタワーに流し、10日間昼夜休みなく水分を蒸発させ、さらに平釜で30時間煮詰めた後、脱水・乾燥に2週間、約1ヵ月かけてできる。
3人の学者と共に、昔の塩の復元ではなく、本来塩がどうあるべきかという観点から20年の研究の末、粟國の塩が誕生した。



ゲランドの塩 顆粒
産地 フランスブルターニュ地方
原材料 海水
工程 天日、粉砕
形状 凝集晶
水分量 しとっり
栄養成分表示(100g当たり) ナトリウム37.1g、カルシウム160㎎、カリウム?㎎、マグネシウム435㎎、食塩相当量94.4g
国の自然保護区で、専念以上続く製法を継承しながら、国家資格を持つ塩職人によって生み出される完全天日塩。
洗浄工程を持たないため、土とプランクトン、ミネラルの影響で灰色の色づく。
フランス有機農業推進団体認定の塩。



パハール岩塩
産地 パキスタンパンジャーブ州
原材料 岩塩
工程 採掘、洗浄、乾燥、粉砕
形状 粉砕
水分量 さらさら
栄養成分表示(100g当たり) ナトリウム39.0g、カルシウム360㎎、カリウム340㎎、マグネシウム140㎎、食塩相当量94.5g
パキスタンの首都イスラマバードから車で6時間、インダス川流域の荒涼とした土獏地帯に、世界最大級ともいわれるパハール岩塩鉱山がある。地殻変動で急激に隆起した海底が、約6憶年もの時をかけてこの地に岩塩層を形成したといわれている。
洞窟の中一面ピンク色の鉱山から掘り出した岩塩の中で、特に濃い、美しいピンク色の部分を「パハール岩塩」として商品化。色が薄すぎても、紫がかった濃い色もパハール岩塩には適さない。(薄すぎるものはナトリウムが多く塩辛く、紫がかったものは食用に適さないため)
掘り出して砕いたまま、再生加工は一切行っていない。



海人の藻塩
産地 広島県呉市
原材料 海水、ホンダワラ
工程 浸漬、平釜、焼成
形状 粉砕
水分量 標準
栄養成分表示(100g当たり) ナトリウム37.2g、カルシウム358㎎、カリウム552㎎、マグネシウム826㎎、食塩相当量94.4g
日本の渚百選にも選ばれた瀬戸内・上蒲刈島の浜でつくられる藻塩。もっとも潮流の速い岬の突端で取水したフレッシュな海水を濃縮し、乾燥させたホンダワラを浸して灰汁を取りながら炊き上げる。元々1984年に当地で古墳時代の製塩土器が出土したことを機に当時の塩を復活させようと、10年の歳月をかけて生まれた。



では、これらの塩を舐めて味を比べた感想を述べていきます。
味の感想に関しては、完全に私の主観になります。

まず、一番違いを感じるのは、餓味(からみ(塩の味))の伝わり方です。
パハール岩塩が一番しょっぱさを速く強く感じ、次に、青い海、粟国の塩、ゲランドの塩と続き、海人の藻塩が一番しょっぱさを遅く弱く感じました。
その分、海人の藻塩はしょっぱさ以外に、甘味、うま味というのも感じられました。
青い海、粟国の塩、ゲランドの塩もしょっぱさ以外に、甘味、うま味も感じられ、ほんとに極僅かな苦味も感じられるようにも思いました。その苦味は嫌味というものをもたらすものでなく、味に深さや豊かさをもたらすような苦味でした。
パハール岩塩の桃色は、赤鉄鉱やマンガンの混入によるものと前回の記事で学びました。
それ故か、パハール岩塩はしょっぱさ以外に、甘味、うま味よりも酸味というものが感じられるように思いました。この酸味は味に鋭さや強さをもたらすような酸味でした。
正直、青い海、粟国の塩、ゲランドの塩の味の違いは、食べ比べても極僅かなものでした。
ゲランドの塩の灰色は、粘土の混入によるものです。しかし、粘土による味の際立った違いというのは感じられませんでした。
味は人間が脳にイメージを描き出して知覚しているので、食べる時にそれがどの塩か分かっていると、その塩の色や情報が味のイメージの描き出しに先入観をもたらすという懸念もありましたので、目を閉じ、食べる時にそれがどの塩か分からないようにして食べ比べてみましたが、それでも違いはあまり感じられず、これが、自分の味覚の限界なのかと思いました。



以上が、塩の味の違いの感想です。
では、この味の違いを、どのように料理に使い分ければいいのでしょうか。
これに関しての私の見解を述べていきます。

塩の味の強さに合わせて、料理もその味の強さに合わせた方が良いと思いました。
餓味(からみ(塩の味))を一番早く強く感じたパハール岩塩には、牛肉など、脂や血の味がする、その素材自体の味が強い濃いものを使った料理に合うと感じました。
しょっぱさを遅く弱く感じる海人の藻塩には、何か煮物などに塩味を加えるような使い方よりも、その味の感じ方に合わせて、例えば、白身魚の刺身の付け塩といったような、まろやかに塩味を感じさせたい料理に合うと感じました。
さらに、料理に合わせた塩と考えた時に、塩の粒の大きさといったものも考えなければならないと思いました。
加えて、仕上げに振り掛ける塩として考えた時に、粒の大きさに加え水分量によっても素材の付き具合も変わってきます。



塩の選び方のまとめ

以上の考えをまとめて、塩と料理の組み合わせ方をまとめていきます。

塩と料理の組み合わせ方

• しょっぱさが強い塩
素材の味が強い料理。油や味付けが濃い料理

• しょっぱさが弱い塩
素材の味が淡泊な料理。あっさりで味付けが淡い料理

・粒が大きい塩
塩を主張させる使い方

・粒が小さい塩
素材に馴染ませる使い方



以上にまとめましたが、正直こんな言葉数で現わせられるような簡単なものではないように思います。
私自身も、まだ料理に合わせた塩の使い方、塩と料理の組み合わせ方といったものに、明確な基準ができたわけではありません。
以上にまとめたものは、ある一定の目安としてとらえて頂ければ幸いです。

河野裕輔
河野裕輔

塩が浸む思いをしました!



まとめ

前回と今回の記事で、料理に欠かせない塩と向き合い、日本で手に入るだけでも、約4000種類以上の塩がある中から、料理に最適な塩を選ぶべく、まずは塩そのもののことを知らなくてはと思い、塩の基礎知識を学び、
その学んだ、塩の基礎知識を活かし、理論的に、約4000種類以上ある塩は何が違うのかを見極め、その違いが料理にどのような違いを生むのか、というのを考え、料理に最適な塩、料理によっての塩の選び方、といったものに、実際に様々な種類の塩を食べ比べながら、せまりました。

せまりましたといいましたが、約4000種類以上ある塩すべてを扱ったわけではないですし、まだまだ、塩にせまりきれていないという思いが正直なところです。
自分自身に、料理に合わせた塩の使い方、塩と料理の組み合わせ方といったものに明確な基準ができたわけではありません。
ただ、ある一定の目安には辿り着いたかなとも思います。
しかし、そのある一定の目安も、あくまで目安として捉え、その使い方の目安の真逆の使い方も試しながら、さらに塩と向き合っていこうと思います。

今後、さらに塩と向き合い、より真相にせまった塩の選び方がまとまれば、新たに記事にしていきたいと思います。



こうして、いずれ開く店への道のりが、また一歩踏み出されたのです。

河野裕輔
河野裕輔

23歩目!


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